彼とそんな別れ方をしてから、あっという間に時は過ぎ。気付けばすっかりと秋めいた季節となった。
契約更新や荷物持ち、王子の胃袋を掴もう大作戦を休止してしばらく経った今、ほとんどと言っていいほど、桐生君との接点はなくなっている。唯一と言っていいほどの部活の時間も、桐生君はバイトのためほとんど欠席。最近になって、ようやく何とか顔を出せているような状況だ。
大学構内でたまに擦れ違ったり、遠くの方で見掛けたりするけれど。話したとしても軽い挨拶程度。正直、変な関係を休止してしまうと、会話という会話が見付からないのが難点だ。
でも、この関係になってしまった後と前ではっきりと違うのは、それでも桐生君と目が合う機会が増えたこと。合ったら、笑いかけてくれること。その笑顔も、前と少し違うこと。あと、迷惑だとわかってても一回やってみたくて。
部室から、バイトに向かっている桐生君を門の近くで見つけて。その小さな背に叫んでみた。
『きりゅうくーん!!』
ま、なにやっとんじゃって。叫んですぐ我に返って、慌てて身を隠したけど。今あんまり接点がないからって、好き勝手やっていいわけじゃない。だって、休止期間が解かれたら、絶対何百倍返しで返ってくるもの。
構内のざわざわが治まってから、もういいだろうと思ってこっそり窓からもう一回門の方を見てみた。
『……それは、ちょっとズルいよ桐生君』
いつから、こっちの方向いてたの。バイト忙しいのに、私が顔出すの待っててくれたの。
振り向いた時はもう姿形なかっただろうに。私って気付いてくれていたのが、すごく嬉しい。
ついつい嬉しくて手を振っていると、ピコポンッ♪ と通知が。
《何》
それだけだけど、それがまた嬉しくて、指が勝手に動く。
〈なんでもない!〉
《うるさい》
〈ごめんごめん!
いってらっしゃい!〉
《次叫んだら容赦しないから》
些細な遣り取りが、心を弾ませた。
――カシャッ。
「うんっ。いい写真撮れた」
離れてみて、考える時間が作れて、やっとわかった。
「……好きだよ、桐生君」
白馬の王子様じゃなくて、優しい魔王様が、私は大好きなんだってこと。



