けど、そういうことなら、私も言い出しやすいかも。
「それで、先輩は?」
「……あのね? ちょっと、お休みをもらってもいい?」
「……お休み?」
「次のコンテスト、ちょっと力入れたくて」
「……荷物持ち?」
「……キスも、かな」
「キス魔なのに?」
「あはは……」
少し、距離をとって自分の気持ちをきちんと整理しよう。それに、好きな子がいる人に、無理強いはやっぱりしたくないから。
「……あ、でも、別にされないからって約束破ったりしないよ絶対」
「それは別に、心配してないですけど」
「え? そうなの? てっきり心配だから毎回毎回呪いのキスをされてるんだとばかり」
「……呪いとかひど」
けど、そんな風に思えてもらえてたなんて知らなかった。
「それは、ちょっと嬉しいかも」
「……心配は別にしてないですけど、不安は少し残ります」
「え? なんで?」
「なんか、感情高ぶったりすると、無意識に口から出てくるみたいなんで」
「……」
「最近は意図してやってることもあるのでタチが悪いですね」
「……それについては、深く反省します」
「よろしくお願いします」
「それじゃ」と、後ろ髪引かれるようなこともなく、さっさと席を立って彼は部室から出て行こうとする。その背中を見ていると、無性に寂しさが込み上げてくる。けど、やるって自分で決めたし。するからにはいいところまで行きたいし、ちゃんと自分の気持ちをまとめたい。
「あ。忘れてた」
「え? ……な、なに」
そう言うと、足早に戻ってきた彼は、私の肩にそっと触れ、そして顎を持ち上げた。
「……んっ。……ん、はっ。んむ」
もう何十回としてきた彼とのキスだけれど、こんなにも深く激しく、性急なのはこれが初めてだった。
初めての感覚に、座っているのに腰が抜けそうになる。それも見越して、私が崩れてしまう前に彼の唇は離れていった。
「前払い。……約束、よろしくね先輩」
「……う、うん。もちろん……」
「あと、もう一つの約束も忘れないでね」
「……もう一つ?」
もう一度、今度は触れるだけのキスをして、触れるか触れないかの距離で彼は小さく忠告をした。
「バイト先には近付かないで」
「……え」
「いい?」
「……行かないで、じゃなくて?」
「……今は近付かないで。俺がいいよって言うまで」
「……」
彼が、OKサインを出してくれるのかどうか。本当のところはわからないけれど。念を押して出て行った彼の背中を、私はただ、申し訳ない気持ちで見送った。



