すべての花へそして君へ③


 けど、そういうことなら、私も言い出しやすいかも。


「それで、先輩は?」

「……あのね? ちょっと、お休みをもらってもいい?」

「……お休み?」

「次のコンテスト、ちょっと力入れたくて」

「……荷物持ち?」

「……キスも、かな」

「キス魔なのに?」

「あはは……」


 少し、距離をとって自分の気持ちをきちんと整理しよう。それに、好きな子がいる人に、無理強いはやっぱりしたくないから。


「……あ、でも、別にされないからって約束破ったりしないよ絶対」

「それは別に、心配してないですけど」

「え? そうなの? てっきり心配だから毎回毎回呪いのキスをされてるんだとばかり」

「……呪いとかひど」


 けど、そんな風に思えてもらえてたなんて知らなかった。


「それは、ちょっと嬉しいかも」

「……心配は別にしてないですけど、不安は少し残ります」

「え? なんで?」

「なんか、感情高ぶったりすると、無意識に口から出てくるみたいなんで」

「……」

「最近は意図してやってることもあるのでタチが悪いですね」

「……それについては、深く反省します」

「よろしくお願いします」


「それじゃ」と、後ろ髪引かれるようなこともなく、さっさと席を立って彼は部室から出て行こうとする。その背中を見ていると、無性に寂しさが込み上げてくる。けど、やるって自分で決めたし。するからにはいいところまで行きたいし、ちゃんと自分の気持ちをまとめたい。


「あ。忘れてた」

「え? ……な、なに」


 そう言うと、足早に戻ってきた彼は、私の肩にそっと触れ、そして顎を持ち上げた。


「……んっ。……ん、はっ。んむ」


 もう何十回としてきた彼とのキスだけれど、こんなにも深く激しく、性急なのはこれが初めてだった。
 初めての感覚に、座っているのに腰が抜けそうになる。それも見越して、私が崩れてしまう前に彼の唇は離れていった。


「前払い。……約束、よろしくね先輩」

「……う、うん。もちろん……」

「あと、もう一つの約束も忘れないでね」

「……もう一つ?」


 もう一度、今度は触れるだけのキスをして、触れるか触れないかの距離で彼は小さく忠告をした。


「バイト先には近付かないで」

「……え」

「いい?」

「……行かないで、じゃなくて?」

「……今は近付かないで。俺がいいよって言うまで」

「……」


 彼が、OKサインを出してくれるのかどうか。本当のところはわからないけれど。念を押して出て行った彼の背中を、私はただ、申し訳ない気持ちで見送った。