なら、もう一つ提案してみようか。
『それ、絶対に桐生君じゃないといけないってことはない? なんか、法律に引っかかるとか』
『……何そのピンポイントな法律。ないですよ。あったとしてもマスターの揺るがない意思くらいじゃないですか?』
『だったら、それ私が作ってみてもいい?』
『……え』
『講義数は割と少なめだし、課題もそんなにない。バイトも少し入ってるけど週末だけだし、そもそも実家暮らし!』
『………………』
『その目は私の才能を疑っているな?』
『はい』
『聞いて驚くなかれ! なんと! 今年の新入部員募集のポスターは私作なのだ!』
『………………』
『驚いた? ねえ。驚いた??』
『いや、そんなポスターあったかなーって』
『嘘ばっかり! 頭いいんだからそれくらい覚えてるでしょ!』
『俺の記憶力指摘するより、自分の腕もう一回磨いた方がいいんじゃないですか』
『いいよ! だったら、誰もが振り返って記憶に残るようなバイト募集のポスター作ってあげようじゃん!』
『あまりにも酷すぎて、全員が二度見とかするようなのはやめてくださいね。店の雰囲気もあるんで』
ああ言えばこう言う……!
まあでも、あんな風に啖呵切っちゃったわけだけど、あくまでも私は、“桐生君が作ったポスター”を作りたかったから。加工とか文字入力とかはちゃちゃっと私がやったけど、イメージを伝えて、店内でいくつか写真を撮ってきてくれたのは、紛れもなく桐生君だから。
「ですから、これは桐生君が作ったポスターです! って、マスターに聞かれても言い張る!」
聞かれることもないと思うけど。けど、このことがきっかけで、桐生君と少し距離が縮まったような気がするんだよね。一方的かもだけど。
「……あったあった。まだ貼ってるんだ」
窓際のテーブルから、奥に見えるキッチンカウンターの写真。どの写真も桐生君の思いが伝わってきたんだけど、この角度のがお店の雰囲気一番伝えられて、何より素敵だったんだよね。
恥ずかしがってか、私がバイト先にお邪魔してしまうのは物凄く嫌がられるから、なかなか来られずにいたけれど……。
「あ。バイト募集の文字が消えてる。もしかして、喫茶店のポスターとして、改めて使ってくれてるのかな」
よっぽど、マスターに喜ばれたんだろうな。よかったね、桐生君。
「……さて。十分堪能したところで、私はマスターに傘を預けて、さっさとお暇しましょうかね」
そう思って、店内を確認しようとお店入り口側へ回ろうとした時だ。ふと目の端に、窓際に座る女の子の姿が目に入った。多分、全然知らない子だったら、きっと気付きもしなかっただろう。でも、知っていたから見つけてしまったんだ。
「……あの子は」
桐生君と一緒に映っていた、ウエディングドレスの……。
誰かを待っているんだろう。その様子は彼女の少し寂しそうな表情で見て取れた。



