料理をしている時から何となく気が付いていたけど、やっぱりそうか。掃除も一通り終え、ご褒美のほうじ茶アイスを食べ終えた頃には、外はもうすっかり雨。しかも土砂降りときた。
「……男の人って、傘何本も持ってるもんかな……」
玄関に刺さっている傘は、黒い傘とビニール傘の二本。これ以上持ってるとは、ちょっと考えにくい。
「……しょうがない。会うのは不味いから、マスターにこそっと渡して帰ろう!」
そんでもって、ビニール傘の方は私が借りて帰ろう。今度お礼と謝罪をしよう。誠心誠意。
「……あ。バイト先と言えば……」
あれは……いつだったか。多分、料理を作り始めて何回か。バイトがある日は、晩ご飯をまかないで済ますことを、間接的に知った時ぐらいかな。いつものように、荷物を預かってバイトの見送りをしようとしていた時だ。妙に元気がなく見えたんだ。
『……無理だって言ってんのに、マスターが全然折れてくんねえの』
なんでも、バイト募集のポスター作りを、桐生君に押しつけてくるんだとか。確かに桐生君、そういうことしてるイメージあんまりないけど。
『何事にもチャレンジだよ! もしかしたら、ここで新たな力発揮しちゃって何か開花するかもよ!』
『そんなのいらない。寧ろ欲しいのは時間なんだって』
『……バイトを減らすわけにはいかないんだもんね』
『結構時給いいし、融通きかしてくれるし、まかないウマいし。正直今回のことがなければ最高』
講義数も多く課題も多い。仕送りも最低ラインで頑なに断ってるらしいから、バイトをしないとお金もない。
よっぽどこのことがネックなんだな。正直、桐生君が考えたポスター、見てみたい気がしなくもないけど。もしかしたらマスターも同じ気持ちなんじゃないか。そんな風に思えて仕方がない。
『あれなら、部活休んでも大丈夫だよ? コンテストはもう少し先だし』
『やだよ。好きでやってることはやめたくない』
『……嫌なこと今までずっと避けて通ってきたの?』
『……そういうわけではないですけど』



