すべての花へそして君へ③


 料理をしている時から何となく気が付いていたけど、やっぱりそうか。掃除も一通り終え、ご褒美のほうじ茶アイスを食べ終えた頃には、外はもうすっかり雨。しかも土砂降りときた。


「……男の人って、傘何本も持ってるもんかな……」


 玄関に刺さっている傘は、黒い傘とビニール傘の二本。これ以上持ってるとは、ちょっと考えにくい。


「……しょうがない。会うのは不味いから、マスターにこそっと渡して帰ろう!」


 そんでもって、ビニール傘の方は私が借りて帰ろう。今度お礼と謝罪をしよう。誠心誠意。


「……あ。バイト先と言えば……」


 あれは……いつだったか。多分、料理を作り始めて何回か。バイトがある日は、晩ご飯をまかないで済ますことを、間接的に知った時ぐらいかな。いつものように、荷物を預かってバイトの見送りをしようとしていた時だ。妙に元気がなく見えたんだ。


『……無理だって言ってんのに、マスターが全然折れてくんねえの』


 なんでも、バイト募集のポスター作りを、桐生君に押しつけてくるんだとか。確かに桐生君、そういうことしてるイメージあんまりないけど。


『何事にもチャレンジだよ! もしかしたら、ここで新たな力発揮しちゃって何か開花するかもよ!』

『そんなのいらない。寧ろ欲しいのは時間なんだって』

『……バイトを減らすわけにはいかないんだもんね』

『結構時給いいし、融通きかしてくれるし、まかないウマいし。正直今回のことがなければ最高』


 講義数も多く課題も多い。仕送りも最低ラインで頑なに断ってるらしいから、バイトをしないとお金もない。
 よっぽどこのことがネックなんだな。正直、桐生君が考えたポスター、見てみたい気がしなくもないけど。もしかしたらマスターも同じ気持ちなんじゃないか。そんな風に思えて仕方がない。


『あれなら、部活休んでも大丈夫だよ? コンテストはもう少し先だし』

『やだよ。好きでやってることはやめたくない』

『……嫌なこと今までずっと避けて通ってきたの?』

『……そういうわけではないですけど』