すべての花へそして君へ③


 とまあ、前置き長くなりましたが、そんなこんながありまして。今は楽しい主従関係を築かせていただいております。


「って! 楽しいわけあるかい!」


 通りすがりの人たちに白い目を向けられつつ、荷物を抱え直して足を速める。今日も相変わらず重いなあこんちきしょうめっ。


「……毎日、勉強頑張ってるんだろうな」


 法学部だもんね。のほほんと勉強している私とは、頭のレベルが全然違うんだろうな。あ、もちろん顔面偏差値もだけど。
 けど、似合いすぎてなんか怖い。無敗弁護士になるよ絶対。誰も勝てっこないってあんな魔王様に。


「ま、でも。マスターだけは別格か」


 魔王様手懐けちゃってるんだもんなあ。いつか手解き受けたいものだ、うん。


「さってと!」


 今日も、誰かに背後をつけられることなく、無事に桐生君のご自宅に到着。


『ちゃんと気を付けて帰ってくださいね』

『……心配してくれるの?』

『荷物のね』

『ですよね……』

『あと、家の場所バレて荒らされるのとか嫌だから』

『……うん。ちゃんと、気を付けて帰るね。つけられないように……』


「今日も荷物とご自宅は守られましたよ桐生君!」


 ということで、本日も少しご褒美をいただきたく……。ちょびっと居座らせてもらおう!
 まずは冷蔵庫チェック! ……ふむふむ。なるほど。ここんとこバイトが続いてたからな。バイト先でまかない食べたなこりゃ。ほとんど減っちゃおらん。


「期限が迫ってるもの……、んー納豆か。これはさすがにお弁当に入れるのは……しょうがない、洗って煮物にでもしよう。このネバネバが美味しいのに」


 慣れた手付きで台所に立ち、調理を開始。というのも、本当に初めてではないからだ。
 初めは、言われたとおりさっさと帰ろうとしたんだけど。だって、王子のお城だし。ちょっとした出来心で。


『あのさ』

『ん?』

『俺、……何て言いましたっけ?』

『……なんか言ったっけ?』


 あの時は、手加減なしに耳引っ張られたっけ。思い出しただけでも痛いな。千切れるかと思ったもんね。


『早く帰れって言ったんですけど。何勝手に人んちの冷蔵庫開けてんですか』

『痛い痛い痛い! ごめんつい出来心で……!』

『それはまあ随分と、図々しい出来心ですね』

『だ、だからごめんってば!』


 そんな風に会話をしてから数日。しょげていた私の耳に飛び込んできたのは、ちょっと嬉しい会話だった。


『おい桐生。またコンビニ弁当?』

『ここんとこ課題が忙しくて』

『その言い訳随分前から聞いてるけど。ていうか一回もお前が弁当作ってきてるの見たことねえ』

『そんなことないよ』

『そうそう。だって、この間美味しそうな弁当持ってきてたじゃん。な?』

『……あれは、食べきれなかった晩ご飯を詰めただけ』

『正直な話、自炊すんの』

『……まあ少しは』

『いやいやいや。あれは少しって言うレベルじゃなかったぞ。めっちゃウマそうだったし。一口もくれんかったけど』

『なんだ、女か』

『……想像に任せるよ』

『なんだよその間は!』

『おいこら! 正直に吐け! 吐いちまえイケメンの女事情!』


 作った本人目の前に、部室でそんな話して盛り上がっていた彼の心は、全然動揺が表に出ないくらいにはなかなか図太いらしい。私はというと、バレやしないかとずっと冷や汗を掻きながらお茶を啜っていたけど。