世の中ボディータッチNGの人とかいたりするじゃない? だから、ハグや手繋ぎがもしダメだったら、やっぱり合法的隠し撮りの提案をさせてもらおうかと思ってたんだけど。
『……え。え?』
優しく引き寄せられた。まるで、本当にそこに“想い”があるみたいに。
『き、桐生君……』
『ハグと、あとなんですか? 恋人繋ぎとかかな』
少し探すように彼の大きな手が動く。ちょんとわずかに触れると、もう逃がさないとでも言いたげに堅く指先が絡まる。
『ま、待って。私今、尋常じゃないほど手汗を掻いておりまして』
『うん』
『うんじゃ、なくて……』
『俺も、……ちょっと緊張してる』
ぎゅっと握ってくる手の平。抱きしめてくれる腕の力。聞こえてくる心臓の音は、確かに少しだけ速いかも。私の方がすごいけど。
『上向いて先輩。できない』
『も、もう十分いろいろしてもらったから』
『ダメ』
『~~っ』
もう知るかと、意を決して顔を上げると、その先にあった王子の端正な顔は、少し驚いたように目を見開いた。そりゃそうでしょうよ。尋常じゃないほど赤い自覚あるからねわたしゃ。
恥ずかしくなってぎゅっと堅く目をつぶると、ふっと優しい空気が洩れる。
『硬いよ先輩』
『ひゃっ!? ……み、耳こそばゆい……』
『もしかして初めて?』
『……』
『……初めてなのに大胆なこと頼んだんですね。寧ろ初めてだからそういうことしたい欲求があったのかな。にしても本当に初めてか……』
『あ、あんまり初めて初めて連呼しないで……』
『じゃあ最後にもう一回だけ』
『ま、まだ言うの……』
そして彼は、少し不安げに。心配そうに小さな声で聞いた。『本当に、初めてが俺でいいんですか』――と。
『え!? 寧ろ最高じゃない!?』
『え』
『だってあの白馬の王子様とだよ!?』
『……は、白馬の、王子……(今までは独り言だったけど、直接聞くとパンチ結構あるな……)』
『そんなの、この世の中プリンセスに憧れる女子たちにとってはこれ以上ないシチュエーションじゃん!』
『……先輩は、好きな人とかいないんですか』
『いるよ! 白馬の王子!』
『……え』
『いるんだよ。私だけの、白馬の王子様が。きっとどこかに』
『……』
『それを、今はまだ捜してる途中かな』
『……。そうですか』
って、熱くなんか語っちゃったんですけど! こんなこと、王子には関係ないだろうに。申し訳なさすぎる。
『そ、そういうことだから、キスは全然、ほっぺたとか指先とか。寧ろ投げる方向でも全然だいじょうぶ』
『……じゃあ、最初は頭に』
驚くまもなく、引き寄せられた頭に、あたたかい熱が降ってきた。
『……き、きりゅう、くん……』
『今は、俺が白馬の王子……なんでしょう?』
『へっ?』
『だから、少しでも素敵な“初めて”になるように』
――いつか本物の白馬の王子様が現れたら、ちゃんと上書きしてもらってくださいね。



