すべての花へそして君へ③


『もしかしたらキス魔でド変態とか思われたかもしれないけど、それはそれで間違ってないからもう致し方ない』

『ふーん。キス魔でド変態』

『……あれ? もしかしたまた私……』

『……俺は、先輩がそれでいいならいいですよ』

『桐生君、だからそれは』

『嫌ですか?』

『……そりゃ、嬉しいけど』

『ならいいんじゃないですか?』


 いいの? そういうことって、簡単に決めちゃっていいのかな。私の感覚が、そもそもおかしい? キスって普通、恋人同士がするもんじゃ。


『先輩がして欲しいこと。させてください』

『け、けど』

『……じゃあ、気が引けるなら、俺にお茶。淹れてくださいよ』

『そ、それくらいならいつだってするよ!? 部室に来たらいくらだって……』

『やですよ。俺だけの特権なんだから、誰もいない時がいい』

『……』


 どうして、彼はこんなにも優しいのだろう。


『……先輩?』


 彼には、何のメリットもないのに等しいのに。寧ろ、私なんかとキスなんてすごいリスキーじゃない? お茶とか、自分でちゃっちゃとできちゃうくらい簡単なのだし、全然割に合わないっていうのに。


『……だから、そんなの簡単に了承しちゃうくらいには、この子のことが大事なんだろうな』

『……』

『彼女? それとも好きな子かな』

『……そうですね。恩人、でしょうか。多分、それが一番しっくりくる』

『恩人付け回してどうするの』

『……安全確認的な?』

『ボディガード? まさか桐生君、SPとか!?』

『あはは。じゃあそういうことで』


 それ以上のことはやっぱり流石に教えてはくれなかったけど、それだけ大事な子だって、わかっただけで十分。


『だから、もう何も聞かないよ。安心してね』

『……先輩?』

『……あ! そうだ! もしよかったら今度会わせてくれたりしない? 桐生君が恩人って言うくらいだもん。この子、すごくいい子なんだろうね』

『……』

『……桐生君? あ! あの、多分無理だと思うからそこは遠慮なく断ってくれていい』

『……はい』

『……このハイはどう受け止めたらいいかな……』

『いい子です、すごく。……いつか紹介しますね。少し、先輩に似てるかも』

『え。いやいやいや! 私こんな美人じゃない』

『先輩も、いい人ですから』


 ああ。こういうの、惚れた欲目というのだろうか。
 優しく笑う彼の笑顔の向こう側には、きっと何か隠していることがあるんだろう。けれど、それさえも魅力的に見えてしまった私の中には、もう理由をつけて逃れようとする気は失せてしまっていた。


『……ます』

『……先輩?』

『キス。……に、します』

『……』

『あ、あのね? 最後にもう一回聞いておくけど、ほんっとうに嫌だったら、というか嫌だと思うから、せめてハグとかにしようかと――』