すべての花へそして君へ③


『……えっと』


 桐生君どうしたんだろう。なんでそんな、困ったような顔……。
 ……あれ。ていうか私、今何か言ったような?


『ね、ねえ。私今、何て言った……?』

『……キスがしたいと』

『へえっ?』

『いや、……ですから』

『……?』

『……俺が言い直すのも。自力で思い出してください……』

『――!?!?!?』


 心の中で、声にならない叫びを上げた。だって、あの王子がちょっと照れてるんだもん!


(って!!何言ってんの私! 正気!? 正気なわけ!? いやそれはまあできることなら一回くらいブチュッとやってみたかったりもしたかったけども!)


 けどそれは違うでしょうよ!! なんでなんでなんで!? なんでそんなこと言っちゃったのよわたしー!
(※現在進行形で叫び中)


『それにほら、王子の顔見てみてよ! なんかちょっと困った顔してるし! 絶対に迷惑だから!』
(※そして洪水のように溢れた)

『あの、先輩。洩れてます』

『へっ!?』

『だからその、……洩れてます。いろいろ』


 …………いろいろ?


『なっ、なんちゅうことを! ごめんごめんごめん! 今のなしだよ! 言い間違いだよ! 聞き間違えだよ~』

『いいですよ』

『いいんですいいんです! ええ本当に! 今までいろいろ何言ったのかは正直半分も覚えてないけど、忘れてもらっていいん』

『先輩がそれでいいんなら』

『はいはいはい。お願いします是非。忘れる方向で何卒……』

『……キスする方向じゃないんですか?』

『え?』

『……?』


 王子に目の前で小首を傾げられなんてして、顔を真っ赤にしない女子はこの世に存在するのでしょうか。


『先輩、ちょっと深呼吸しましょう』

『え?! あ、そ、そうだよねー。深呼吸? するする! スーハースーハー。スッスッハー……』

『それで、落ち着いたらもう一回考えてください』

『……かん、がえる……?』

『俺とキスするのか』

『ひえっ!?』

『それとも、別のにするのか』

『うえっ? え、と。えーっと……』


 まだ、顔が熱い。あんな爆弾自分で落としたんだもん。恥ずかしいのももちろんある。けど、なんでそれ以上に期待してるんだろ。興奮が治まりそうになくて……鼻血出そう。


『……桐生君は』


 バクバクうるさい心臓を何とか押さえつけて。おバカな私に言い聞かせるように、ちゃんと、ゆっくり。ゆっくりと言葉を続けた。


『桐生君は、……それでいいの』

『俺ですか? ……何故? 頼んでるのは俺ですよ』

『桐生君が嫌なことを、私は頼みたくない』

『……』


 と、言っても、完全言い出しっぺは私の方だけど。好きでもない奴と接吻する相手の気持ちも考えないで、自分の欲望を溢れさせた結果だ。