持ってきた写真を渡すと、彼は一度それに目を通してから、口を開いた。
『一つだけ、頼み事をしてもいいですか』
『何?』
『黙ってて、もらいたいんです』
『……え?』
そして王子は、膝の上に握り拳を作りながら、私に頭を下げた。
『このこと、誰にも言わないで欲しいんですけど』
『桐生君……』
『お願いします』
『だ、誰にも言わないよ!?』
彼は、ストーカーじゃない。私が、もしかしたらそう思いたいだけなのかもしれないけど。でも、そんなんじゃないと思う。
『……何か、事情があるの?』
『……』
『ごめん。言えないよね。聞かなかったことにして』
『タダとは言わないんで。……お願いします』
『うん。大丈夫。誰にも言わないよ』
『……ありがとうございます』
感謝の言葉の向こう側。安堵の色に染まる瞳。心理学、ちょっと勉強しててよかったかも。
……でもさ。
『……そんなに、大事な子なのかな』
『……先輩?』
『え? あ、はいっ!?』
『何して欲しいですか。俺にできることならなんでもするんで』
『いやいやいや! 大丈夫だって! 誰にも言ったりしないよ! そんなに口軽い人間に見える?』
『……けど、俺の気が済まないので』
『そう言われても……』
『お願いします』もう一度、そう頼んできた彼は、真っ直ぐに私の瞳を見つめ返してきた。
……譲る気のない意思。向こう側にわき上がってくる不安、か。
『……確かに、そうしないと桐生君の方が不安だよね』
『……え』
『……うん。わかった。ちょっと考えさせてくれる?』
『……あ、はい。それは勿論……』
それから、一度席を立った私は、彼から距離をとるように窓際へと足を運ぶ。外の景色を見ながら湯飲みを一度傾け、そしてため息を落とした。
(……もしかしたらこれって、合法的に彼を隠し撮りさせてもらえるチャンスかもしれない)
バクバクと、早鐘を打つ心臓を静かに押さえながら、何とか興奮を静めていく。
(けど、それで本当にいいの彩芽……)
だって、これはまたとないチャンスなんだよ。何の接点もなかった白馬の王子様と、こんな機会二度とやってこないよ。
隠し撮りは今もバレてないんだし、もっと他に、ここぞというお願いしちゃわないと損だよね。だって、なんでもしてくれるって言ってくれてるんだし! ……でも。
『なんでも……か。なんでもと言われると、何か余計どれにしようか迷っちゃうな。でもでも、理由はどうあれ折角白馬の王子様と接触できたわけだし、何かこう、どうせならこれっきりで終わらないような何かがいいよね……』
『(……この人全部、声から漏れてるんだけど)』
『でも、そうだとしても流石に図々しいお願いはできないよね! 王子絶対優しいから、なんでもお願い叶えちゃうよどうしよう……!』
『先輩』
『は、はいっ!!』
『それで? いろいろ言ってましたけど、決まったんですか』
『あ、う、うん! 決まったよ!』
そう言われて、慌ててちょうどよさげなものがないかって。どこかの回想でも言ったと思うけど、目につく辺りを探したのが、きっとダメだったんだよね。
『……キス』
『……はい?』
見れば見る分だけ。
思えば思う分だけ。
『キス、してみたいな』
『……』
それは、願いとなって溢れた。



