すべての花へそして君へ③


 持ってきた写真を渡すと、彼は一度それに目を通してから、口を開いた。


『一つだけ、頼み事をしてもいいですか』

『何?』

『黙ってて、もらいたいんです』

『……え?』


 そして王子は、膝の上に握り拳を作りながら、私に頭を下げた。


『このこと、誰にも言わないで欲しいんですけど』

『桐生君……』

『お願いします』

『だ、誰にも言わないよ!?』


 彼は、ストーカーじゃない。私が、もしかしたらそう思いたいだけなのかもしれないけど。でも、そんなんじゃないと思う。


『……何か、事情があるの?』

『……』

『ごめん。言えないよね。聞かなかったことにして』

『タダとは言わないんで。……お願いします』

『うん。大丈夫。誰にも言わないよ』

『……ありがとうございます』


 感謝の言葉の向こう側。安堵の色に染まる瞳。心理学、ちょっと勉強しててよかったかも。
 ……でもさ。


『……そんなに、大事な子なのかな』

『……先輩?』

『え? あ、はいっ!?』

『何して欲しいですか。俺にできることならなんでもするんで』

『いやいやいや! 大丈夫だって! 誰にも言ったりしないよ! そんなに口軽い人間に見える?』

『……けど、俺の気が済まないので』

『そう言われても……』


『お願いします』もう一度、そう頼んできた彼は、真っ直ぐに私の瞳を見つめ返してきた。
 ……譲る気のない意思。向こう側にわき上がってくる不安、か。


『……確かに、そうしないと桐生君の方が不安だよね』

『……え』

『……うん。わかった。ちょっと考えさせてくれる?』

『……あ、はい。それは勿論……』


 それから、一度席を立った私は、彼から距離をとるように窓際へと足を運ぶ。外の景色を見ながら湯飲みを一度傾け、そしてため息を落とした。


(……もしかしたらこれって、合法的に彼を隠し撮りさせてもらえるチャンスかもしれない)


 バクバクと、早鐘を打つ心臓を静かに押さえながら、何とか興奮を静めていく。


(けど、それで本当にいいの彩芽……)


 だって、これはまたとないチャンスなんだよ。何の接点もなかった白馬の王子様と、こんな機会二度とやってこないよ。
 隠し撮りは今もバレてないんだし、もっと他に、ここぞというお願いしちゃわないと損だよね。だって、なんでもしてくれるって言ってくれてるんだし! ……でも。


『なんでも……か。なんでもと言われると、何か余計どれにしようか迷っちゃうな。でもでも、理由はどうあれ折角白馬の王子様と接触できたわけだし、何かこう、どうせならこれっきりで終わらないような何かがいいよね……』

『(……この人全部、声から漏れてるんだけど)』

『でも、そうだとしても流石に図々しいお願いはできないよね! 王子絶対優しいから、なんでもお願い叶えちゃうよどうしよう……!』

『先輩』

『は、はいっ!!』

『それで? いろいろ言ってましたけど、決まったんですか』

『あ、う、うん! 決まったよ!』


 そう言われて、慌ててちょうどよさげなものがないかって。どこかの回想でも言ったと思うけど、目につく辺りを探したのが、きっとダメだったんだよね。


『……キス』

『……はい?』


 見れば見る分だけ。
 思えば思う分だけ。


『キス、してみたいな』

『……』


 それは、願いとなって溢れた。