カメラを手に取ったものの、部室へ戻る扉はなかなか開けられなかった。割と本気で、土下座なり何なりする覚悟だった。けれど扉の向こうにいた王子は、怒っているというよりは悩んでいるといった表情で、何か考え込んでいるようだった。
『……あの、桐生君?』
『……あ。すみません。カメラありがとうございます』
『写真は、もう少しで現像できるから。よかったらもうちょっと待ってて』
『はい。いろいろすみません』
イエイエ。謝んないでください。謝らないといけないのは、私の方なんですから。ええ本当に。
じっと黙って待っているのもいろいろ耐えられないので、部室に常備してある有りっ丈のお茶とお茶菓子を引っ張り出した。今度実費で追加しておこう。
ていうか、なんでうちの部室にはコーヒー紅茶が一つもないの。王子に日本茶とか。なんかちょっと新しいけどさ。湯飲み似合ってるし。
『……それでも、ある中で一番高そうなやつ選んでみたけど、これがくっそ不味かったらどうしよう……! よくあるじゃん。高級でもあんまり美味しくないやつ!』
『……』
『そんなの庶民の口に合うわけが……って! 王子なんだからそれはない』
『先輩』
『……! は、はいっ! なんでしょう……?』
『お茶、美味しいです』
『……!』
『お気遣いありがとうございます』
『と、とんでもない……! でも、そう言ってくれてありがとう! 何なら私、給仕係にでもなっちゃおうかな!』
『それなら、いつでも美味しいお茶が飲めるので嬉しいですね』
『またまたー、桐生君お上手なんだから』
『いやいや、本当ですって』
話が盛り上がること数十分。時計を見ると、そろそろ現像していた写真ができあがりそうな頃合いだった。
『先輩、現像したってことは、見たんですよね』
『ん?』
『俺が撮った写真』
『……うん。ごめんなさい』
『……気が付かなくて。勝手に見たこと、勝手に現像したこと。……謝っても許してくれないかもしれないけど……』
『え。あ、頭上げてください』
もう一度頭を下げて謝ると、彼は少し慌てた様子で首を振った。
『カメラを間違って持って行かれたことも、現像されたことも、別に俺怒ってませんよ。悪気があったわけじゃないですし』
『……でも、勝手に見られていい気はしないと思う』
『それは、……そうですけど。でも、勝手に見ても、いい気はしなかったでしょう?』
『……え?』
『“もしかしてストーカー?”』
『……!』
『なんて、思ったりしませんでした?』
『お、思わないよ……!』
『嘘。顔に書いてありますよ』
『ちがっ、これは……』
好きな子なのかなって。思っただけで。
……そんなこと、思ってもみなかった。
『……先輩?』
『……取り敢えず、もうできてると思うから持ってくるね』
そうしてまた逃げてきた暗室に来て、ふと思った。
『……うわ。本当だ。目線のある写真って、数えるくらいしかない』
ストーカー……。ちゃんと見てたら、そんな風に思ってしまっていたかもしれない。背中が少し、ひやりとした。



