「――ぷはっ」
「じゃ、これとこれとこれ。家まで運んどいて」
――否、悪魔とキスをした。
「もうっ! ムードが台無し!」
「ムードも何も、契約更新しただけですけど」
「あああ! 契約とか言わないで! 更新とか言わないでえ!!」
「それ以上うるさくするなら、一生喋られなくようなのかますけど」
いや、魔王様の間違いだったわ。死亡フラグの匂いがぷんぷんするんですけど。てか、唇拭いながらそういうこと言わないでよ。なんか無性に虚しくなるから。
「それはそうと、……今日は何があるの?」
「(それはそうと?)うん。バイト」
「あれ? 今日は夜から予定が入ってるから入れないって、言ってなかったっけ?」
「そのはずだったんだけど……」
どうやら、新しく入ったらしいバイトくんが急に病欠で来られなくなったそうで。そのピンチヒッターに魔王様にお呼びの声が掛かったそうな。魔王の予定すら変更させるマスターは勇者か。怖いもの知らずか。
「急がなくていいって言ってくれてるんだけど、流石に一人じゃ大変だろうし」
「……そうだね。その方がマスターさんも喜ぶと思うけど、急に忙しくなった桐生君も、急ぎ過ぎて怪我とかしないよう気を付けてね」
「そっくりそのままお返ししますよ」
「返事は」
「……うん。じゃ、後のことよろしく」
「はい! お任せあれ!」
そんな魔王――改め一つ後輩の桐生君は、大急ぎでバイト先へと走っていった。
あまり詳しくは知らないけれど、彼にとってあの場所は、よっぽど大切なのだろう。あの魔王が、急でも動くぐらいだからな。
「……あ! 今日夕方から雨の予報だったけど、桐生君ちゃんと傘持って行くかな……」
って、魔王の心配なんかしなくていいんだってば。私は私で、さっさとやること済ませないと。
――カシャッ。
「うんっ。今日もいい空! そしてイケメン!」
彼とこんな関係が始まってしまったのは、きっといろんな不運が重なってしまったことが原因なのだろう。



