朝4時から叩き起こされ、ひな子のお抱えのエステや美容室、ブティックに下着屋と、いろいろ連れ回された。
『いいですこと桃香。女の戦装束は化粧ですの。決して手を抜いてはいけませんのよ』
『女は、愛嬌より度胸ですわ!』なんて。まるで桜李さんに殴り込みにでも行きそうな勢いで言っていたけれど。でも、そのお陰でこうして自分の足で彼の元まで来られた。確かに、負けてられない戦みたいなものだから、言い得て妙だけれど。
……可愛いって、言ってもらえて嬉しい。女の子は、その一言でいろんな苦労が報われるんだね。
「……」
「……桜李さん?」
ぎゅっと。握られた手に力がこもる。
「……あ、あの……?」
「……いや?」
「嫌です」
「……流石に、即答されるとは思ってなかったよお……」
「あの、その」
「……ん?」
「て、……手汗を、掻いてしまいそうなので……」
「…………」
「へ、変な汗を掻いてしまうと、桜李さんにも迷惑が……」
「…………」
「な、なので、離していただけたら……」
「嫌だって、言ったら?」
「えっ?」
「おれが、……嫌だって言ったら?」
「……え。……えっと……」
「……」
これは、また何か試されているのだろうか。
でも、じっと見つめてくる瞳に、嘘はつけそうにない。
「……はな、して……」
「……」
「……ほしく、ないです」
「……うん」
「離さないで、……ください」
「ん! わかった!」
あかねさん。振り回されないように気を付けてねって、言ってくださいましたけど。
「桜李さん」
「ん~?」
「ほっぺた。……ごめんなさい」
「……」
「その、……大丈夫ですか?」
「………………」
「お、……桜李さん?」
「お陰で変なスイッチ入っちゃったんだよねえー」
「え!?」
「傷物にした責任、取ってくれるんでしょー?」
「そ、それは……その」
「んー?」
……多分。いや、絶対無理そうです。正直勝てる気がしません。



