てっきりおれは、『桃香を泣かせた罪は、相当重いですわよ』とかなんとか言われて、挙げ句『桜李君に任せたあたくしがバカでしたわ』なんて、言われるとばかり思っていたけれど。凜とした迷わぬ即答に、思わず息が止まる。
『……それに、あなたの方こそ、もう他の誰にも任せたくないのではなくて?』
畳み掛けてきたとどめに、思わず苦笑いが漏れた。
「……おれは、ただの好きな奴に似てるだけの男だよ」
『はい? ……桜李君そんなこと思ってますの』
「直接言われたからね」
『……根に持ってますの』
「持つよ。おれだって、腹立つことの一つや二つあるんだから」
『それが、決して桃香の本心でなくても?』
「嘘でも聞いたらちょっと腹立つの」
『あら、ちゃんとご存じなんですのね。ならよかったですわ』
「……」
『桜李君』
「なにさ」
『あたくし今、初めてあなたのこと、ちょっと可愛いと思いましたわ』
「嬉しくない!」
『ほらそういうところ』
ひなちゃんに口で対抗できる人って、いるのかな。おれも結構、そっち方面強いはずなんだけどなぁ。
「……桃ちゃん、元気にしてる?」
『ええ。とても大泣きしていたとは思えないほどですわ』
「そっか」
『桜李君』
「ん? 何?」
『桜李君が、桃香を心配していたのはよくわかっていますの。それは、桃香自身にも十分伝わっていますから』
「……うん」
『まあ? 感情を露わにして叩かれたと聞いた時は、よくやったと桃香を褒めてあげましたけれど』
「……あ、あはは……」
思わず右の頬を撫でると、何故か頬よりも今は頭の方が痛かった。……何かしたっけ。
『桜李君。桃香は、もう待っているだけの子どもではありませんわ』
「え?」
『……今にまた、自分の足で歩き始めます。きっと、そう遠くないうちに』
「……そっか」
『ありがとうございました、桜李君』
「ひなちゃん……」
『紆余曲折ありましたけれど、今回のことは桃香にとって、必ず未来でプラスになることですわ』
「……そうかな。そうだと、おれも嬉しいけど」
『勿論ですわ。……ですのでまた、近々改めてお礼させてくださいませ』
「え? いや、だからそれは」
というか、いつもほとんど冗談で言ってるんだけど。律儀なんだもんなあひなちゃん。
『いいえ。今回ばかりは、させていただかないとあたくしの気が収まりませんわ』
「……そっか。じゃあ遠慮なく受け取らせてもらうね」
『はい。すぐお持ちしますから、楽しみにしていてくださいませ』
「はいはい、どーも」
彼女が前に進めているならそれでいい。
一番のおれの願いは、君がまた、自分の足で歩いて行けるようになることだから。



