すべての花へそして君へ③


 てっきりおれは、『桃香を泣かせた罪は、相当重いですわよ』とかなんとか言われて、挙げ句『桜李君に任せたあたくしがバカでしたわ』なんて、言われるとばかり思っていたけれど。凜とした迷わぬ即答に、思わず息が止まる。


『……それに、あなたの方こそ、もう他の誰にも任せたくないのではなくて?』


 畳み掛けてきたとどめに、思わず苦笑いが漏れた。


「……おれは、ただの好きな奴に似てるだけの男だよ」

『はい? ……桜李君そんなこと思ってますの』

「直接言われたからね」

『……根に持ってますの』

「持つよ。おれだって、腹立つことの一つや二つあるんだから」

『それが、決して桃香の本心でなくても?』

「嘘でも聞いたらちょっと腹立つの」

『あら、ちゃんとご存じなんですのね。ならよかったですわ』

「……」

『桜李君』

「なにさ」

『あたくし今、初めてあなたのこと、ちょっと可愛いと思いましたわ』

「嬉しくない!」

『ほらそういうところ』


 ひなちゃんに口で対抗できる人って、いるのかな。おれも結構、そっち方面強いはずなんだけどなぁ。


「……桃ちゃん、元気にしてる?」

『ええ。とても大泣きしていたとは思えないほどですわ』

「そっか」

『桜李君』

「ん? 何?」

『桜李君が、桃香を心配していたのはよくわかっていますの。それは、桃香自身にも十分伝わっていますから』

「……うん」

『まあ? 感情を露わにして叩かれたと聞いた時は、よくやったと桃香を褒めてあげましたけれど』

「……あ、あはは……」


 思わず右の頬を撫でると、何故か頬よりも今は頭の方が痛かった。……何かしたっけ。


『桜李君。桃香は、もう待っているだけの子どもではありませんわ』

「え?」

『……今にまた、自分の足で歩き始めます。きっと、そう遠くないうちに』

「……そっか」

『ありがとうございました、桜李君』

「ひなちゃん……」

『紆余曲折ありましたけれど、今回のことは桃香にとって、必ず未来でプラスになることですわ』

「……そうかな。そうだと、おれも嬉しいけど」

『勿論ですわ。……ですのでまた、近々改めてお礼させてくださいませ』

「え? いや、だからそれは」


 というか、いつもほとんど冗談で言ってるんだけど。律儀なんだもんなあひなちゃん。


『いいえ。今回ばかりは、させていただかないとあたくしの気が収まりませんわ』

「……そっか。じゃあ遠慮なく受け取らせてもらうね」

『はい。すぐお持ちしますから、楽しみにしていてくださいませ』

「はいはい、どーも」


 彼女が前に進めているならそれでいい。
 一番のおれの願いは、君がまた、自分の足で歩いて行けるようになることだから。