すべての花へそして君へ③


『……って』


 ていうか、ちょっと待ってよ。
 なんでおれ、無意識の間にこんなとこまで踏み込んで来ちゃってんの。ここだけは、許しちゃダメだったのに。


『――!? 桃ちゃん!!』


 目の前から逃げていった小さな彼女の背中はやがて、その声と同時に大きく傾ぎ、ひなちゃんの腕の中へ静かに収まる。


“桃ちゃんが家に帰ってこない”

 緊急事態だと、彼女と連携を取ってすぐに見つけてあげられたけれど。


『お見事でしたわね、桜李君』


 そう言った彼女の目は、まるで殺意でもこもっているかのようだった。


『……事情がお有りなのですわね』

『……事情って言えるほどのものじゃないよ』

『桜李君のそんな顔、初めて見ましたわ』

『ん? ……どんな顔してるの、おれ』

『“やってしまった”と』

『……はは。そうかも』



“いえ。……少し、気になる人がいるので”

“え”

“少し、あなたに似ているんです。いつも真っ直ぐなところとか。いつも元気なところとか。やさしいところとか”

“……そっかあ”


 あれから、ずっとざわざわする。あんな風に、責め立てるつもりは、なかったのに。


『……桜李君……』

『……ごめん、なんでもないよ。それより桃ちゃんは』

『眠ってますわ。気持ちが、限界だったのやも知れません』

『……』

『……事情は後ほど伺いますわ。一旦、桃香はうちで預からせていただきますわね』

『……うん。よろしくね』


 いつから、おれはこんな感情的な人間になったんだろう。あそこまで……あんなところまで、踏み込みに行っちゃうなんて。


(……もしかしたらあーちゃんにも、ここまで踏み込んで行ったこと、なかったんじゃないかな)

「――はあああっ!」

「……! っ、やああ!」


 すんでの所で、相手の攻撃を受け止める。


「おうり、集中して!」

「……してるってば。そっちこそ、ちゃんと受けてよ、ねっ!」


 そうだ。今は実践。手本の真っ最中。相手が相手なだけに、本気でかからないと自分が怪我をしてしまう。


「はあっ!」

「やあっ!」


 お互いが、相手に腕や足を使って技を繰り出していく。勿論それは、お互い相手に華麗に受け止められ、自然に急所を外しながら攻撃を受け流される。言わば技の殺し合いだ。


「たああッ!」

「ふっ、ん!」

「てやあッ!!」

「っ、く……!」


 いくつもの技を繰り出していると、初めは応援をしていた声も静まりかえり、子どもたちの視線が自分たちに釘付けになる。そうなったら、いよいよ大技だ。最後だけは、お互いいつもシークレット。
 3回負けた方は、あーちゃんの長~い惚気を永遠聞くという罰ゲームが待っている。現在2勝2敗13引き分けで、どちらも崖っぷちだが、正直もうお腹いっぱいだ。