『……って』
ていうか、ちょっと待ってよ。
なんでおれ、無意識の間にこんなとこまで踏み込んで来ちゃってんの。ここだけは、許しちゃダメだったのに。
『――!? 桃ちゃん!!』
目の前から逃げていった小さな彼女の背中はやがて、その声と同時に大きく傾ぎ、ひなちゃんの腕の中へ静かに収まる。
“桃ちゃんが家に帰ってこない”
緊急事態だと、彼女と連携を取ってすぐに見つけてあげられたけれど。
『お見事でしたわね、桜李君』
そう言った彼女の目は、まるで殺意でもこもっているかのようだった。
『……事情がお有りなのですわね』
『……事情って言えるほどのものじゃないよ』
『桜李君のそんな顔、初めて見ましたわ』
『ん? ……どんな顔してるの、おれ』
『“やってしまった”と』
『……はは。そうかも』
“いえ。……少し、気になる人がいるので”
“え”
“少し、あなたに似ているんです。いつも真っ直ぐなところとか。いつも元気なところとか。やさしいところとか”
“……そっかあ”
あれから、ずっとざわざわする。あんな風に、責め立てるつもりは、なかったのに。
『……桜李君……』
『……ごめん、なんでもないよ。それより桃ちゃんは』
『眠ってますわ。気持ちが、限界だったのやも知れません』
『……』
『……事情は後ほど伺いますわ。一旦、桃香はうちで預からせていただきますわね』
『……うん。よろしくね』
いつから、おれはこんな感情的な人間になったんだろう。あそこまで……あんなところまで、踏み込みに行っちゃうなんて。
(……もしかしたらあーちゃんにも、ここまで踏み込んで行ったこと、なかったんじゃないかな)
「――はあああっ!」
「……! っ、やああ!」
すんでの所で、相手の攻撃を受け止める。
「おうり、集中して!」
「……してるってば。そっちこそ、ちゃんと受けてよ、ねっ!」
そうだ。今は実践。手本の真っ最中。相手が相手なだけに、本気でかからないと自分が怪我をしてしまう。
「はあっ!」
「やあっ!」
お互いが、相手に腕や足を使って技を繰り出していく。勿論それは、お互い相手に華麗に受け止められ、自然に急所を外しながら攻撃を受け流される。言わば技の殺し合いだ。
「たああッ!」
「ふっ、ん!」
「てやあッ!!」
「っ、く……!」
いくつもの技を繰り出していると、初めは応援をしていた声も静まりかえり、子どもたちの視線が自分たちに釘付けになる。そうなったら、いよいよ大技だ。最後だけは、お互いいつもシークレット。
3回負けた方は、あーちゃんの長~い惚気を永遠聞くという罰ゲームが待っている。現在2勝2敗13引き分けで、どちらも崖っぷちだが、正直もうお腹いっぱいだ。



