『……桜李君の方から掛けてくるだなんて、何か裏があるに違いありませんわ……』
「ひなちゃんだって、実はおれのこと何処かで見てるんじゃないの? いつも時間バラバラなのに、終業時間ぴったりに毎日電話掛けてきて……」
『それは勿論、桃香への愛がそうさせているのですわ!』
「……あー、ハイハイ……」
電話の相手は、彼女の友人。改め、おれのちょっとした知り合い。
『けれど、本当にどうしましたの?』
「……この間さ、何か言ってたよね?」
“――桜李君に、折り入ってお願いがありますの!”
「それってさ、もしかして桃香ちゃん絡み?」
『……はい。実は、以前より気になっていることがありまして……』
この時期になると、たまになってしまうらしい。
「……夢遊病? 桃香ちゃんが?」
『ええ。気が付いたら、何故かいつも台所にいるそうですの』
けれど、そうではないことを、そう診断を下した先生たちも、友人のひなちゃんも。恐らく桃香ちゃん本人もわかっていた。原因が、過去にあることも。
そして、その一件があったせいで、両親が大病院を出たと思っていること。引け目を感じ、我が儘を言えずにいること。本当の、心からの本音が、出せずにいること。
「……やっぱりそっか」
あの部屋が、いい証拠。正直、第一印象なんてあっという間に塗り替えられていくものだ。
『……やっぱり? とは……』
「見ていて何となくね。そんな感じがしたから」
『……! 流石ですわ桜李君!』
「……あ、うん。ありがとおー……」
うん。あんまりね、女子高生の夢は壊すものじゃないよね。
「……え? ……GPS付きのウサギのキーホルダー……。それ桃香ちゃん知ってるんだよね?」
『勿論ですわ。……このウサギを肌身離さず持っていれば、きっとあなたを守ってくれると』
「……それ大事なところ言ってないよね」
『勿論、あたくしが守っているということは秘密ですわ』
それから、ひなちゃんからいろんな話を聞いた。
普段の彼女のこと、学校での彼女のこと、家での彼女のこと。おれの恩師でもある先生たちも、心配しているけれど、こればかりは自分たちが言ってもどうにもならないこと。
過去のトラウマを乗り越えることが如何に苦しいことか。……おれは、それをよく知っている。
『今まで誰も、何もしてあげられずにここまで来ている。……それは重々承知の上、ご無理を承知の上でお願い致しますの』
“――桃香をどうか、助けてあげてくださいまし”



