すべての花へそして君へ③


『……桜李君の方から掛けてくるだなんて、何か裏があるに違いありませんわ……』

「ひなちゃんだって、実はおれのこと何処かで見てるんじゃないの? いつも時間バラバラなのに、終業時間ぴったりに毎日電話掛けてきて……」

『それは勿論、桃香への愛がそうさせているのですわ!』

「……あー、ハイハイ……」


 電話の相手は、彼女の友人。改め、おれのちょっとした知り合い。


『けれど、本当にどうしましたの?』

「……この間さ、何か言ってたよね?」


“――桜李君に、折り入ってお願いがありますの!”


「それってさ、もしかして桃香ちゃん絡み?」

『……はい。実は、以前より気になっていることがありまして……』


 この時期になると、たまになってしまうらしい。


「……夢遊病? 桃香ちゃんが?」

『ええ。気が付いたら、何故かいつも台所にいるそうですの』


 けれど、そうではないことを、そう診断を下した先生たちも、友人のひなちゃんも。恐らく桃香ちゃん本人もわかっていた。原因が、過去にあることも。
 そして、その一件があったせいで、両親が大病院を出たと思っていること。引け目を感じ、我が儘を言えずにいること。本当の、心からの本音が、出せずにいること。


「……やっぱりそっか」


 あの部屋が、いい証拠。正直、第一印象なんてあっという間に塗り替えられていくものだ。


『……やっぱり? とは……』

「見ていて何となくね。そんな感じがしたから」

『……! 流石ですわ桜李君!』

「……あ、うん。ありがとおー……」


 うん。あんまりね、女子高生の夢は壊すものじゃないよね。


「……え? ……GPS付きのウサギのキーホルダー……。それ桃香ちゃん知ってるんだよね?」

『勿論ですわ。……このウサギを肌身離さず持っていれば、きっとあなたを守ってくれると』

「……それ大事なところ言ってないよね」

『勿論、あたくしが守っているということは秘密ですわ』


 それから、ひなちゃんからいろんな話を聞いた。
 普段の彼女のこと、学校での彼女のこと、家での彼女のこと。おれの恩師でもある先生たちも、心配しているけれど、こればかりは自分たちが言ってもどうにもならないこと。
 過去のトラウマを乗り越えることが如何に苦しいことか。……おれは、それをよく知っている。


『今まで誰も、何もしてあげられずにここまで来ている。……それは重々承知の上、ご無理を承知の上でお願い致しますの』


“――桃香をどうか、助けてあげてくださいまし”