「えーっと。確かこの辺り……」
一度気になってしまったら寝られるものも寝られない。それに、何故か妙な胸騒ぎがした。けれど、流石に実家の方へしれっと入っていくわけにも行かず。窓の外から少しだけ様子を見て、大丈夫そうなら帰って寝ようと思ってた。
部屋の電気は点いていた。けれどそこには誰もいる気配がない。ただの消し忘れ? ならまあ、一応消すだけ消しておこうか。
そう思って網戸を開け、ひょいっと窓から侵入。電気を消そうと手を伸ばすと、何か、小さく声が聞こえた気がした。よくよく耳を澄ますと、それは少し暗がりになっている勝手口の方から聞こえてくる。
まさか、不法侵入者? いやでも、一応敷地内には防犯装置が付いてるって先生たち言ってたし。
一応、すぐにでも通報できるように準備してから、そちらの方へ、ゆっくりと足を進めた。
「――――」
おれが見つけたのは、小さく小さく、縮こまった女の子だった。
「……い、や……っ」
その子は、本当に隅っこの方でこれ以上小さくなれないところまで小さくなっていた。
「ここから。出して……」
体を震わせて。必死に絞り出すような声で。
「……誰か、……っ、だれ、か……」
静かに、泣いていた。
「……桃香、ちゃん? 桃香ちゃんっ」
その姿が何かと一瞬重なったけれど、ハッと気を取り直し彼女の近くへと腰を下ろす。
小さく声をかけてからわかった。彼女は、眠っているのだと。
「……どうして、そんな怖い夢見てるの……」
そこは、ただの怖い夢の世界。そんなところ、さっさと出ておいでよ。
けれど、何度呼びかけても彼女は魘されたように小さく助けを呼びながら、何度も何度も、涙を流し続けていた。
「確かこの部屋……」
途方に暮れ、どうすることもできないと悟ったおれは、せめて部屋に運んであげることにした。完璧、おれの方が不法侵入者だ。
寝ている彼女に謝ってその扉を開けた瞬間、ものすごい眩しさにおれは思わず目を顰めた。
……こう言うの、なんていうんだっけ。ラブリー? ファンシー? ものすごく、女の子の夢が詰まったようなお部屋だ。
あんまりじろじろ見るのはよくないから、そんなにはっきりとは見なかったけど、彼女の部屋は可愛らしいもので溢れていた。パステルカラーの可愛いらしいウサギのぬいぐるみたちや、花柄のカーテン、絨毯、お布団カバー。そして、集めるのが趣味なのか。ケーキ屋さんの紙袋や広告が、カラーボックスの中に綺麗に収まっていた。……へえ。新しいお店がオープンしたんだ。あ、プリンに赤丸がしてある。
「大丈夫。……大丈夫だよ。おれが、そんな怖いことから助けてあげるからね」
彼女は、布団の中に戻ってもまだ魘されたように眠るだけ。そんな風になっている彼女を、流石に放っておくわけにはいかなくて。彼女の涙が止まるまで、その日は付き添ってあげることにしたのだった。



