すべての花へそして君へ③

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 畳の上で、子どもたちが二人組で組んで、声を上げながら練習に励んでいる。今日はその様子を、怪我のないように見守りながら、できていないところがあれば指摘し、時に実践して見せてと指導に当たる。寝不足の体には、ちょっとつらいスケジュールだ。


「ぼうっとしてるねえ」

「そんなことない」

「心ここに有らず」

「……ただの実習疲れだよ。明けにこうして扱き使われてるし」

「そんな顔じゃないよ。何か、し残してる感じ」

「……」


 誰かさんと一緒で、隣に立つ友人も何処かでおれのことを見ていたというのだろうか。電話では別に、そこまで話してはなかったはず。


「その頬の腫れと関係あり?」

「……」

「こりゃ当たりだねえ」

「……ちょっと怖いんだけど」

「でもまさか、平手食らうなんて……」

「……」

「なんか、ちょっといい気味だなあ」

「……ちょっと!」


 にやりと悪い顔でしばらくは笑われていたけれど、「この後は実践形式で練習。その前におれたちで子どもたちに手本を見せるんだから、ちゃんと集中しててよ」と、注意されてしまった。


「……わかってるってば」


 わかってる。
 し残し。……確かに、それもしてきたけど。


「……傷口、開いたままだからなあ……」

「……? 何か言った?」

「なんでもないっ」


 なんとかしないと。……さて、どうしたものか。


 ――――――…………
 ――――……


 病院実習が始まってすぐのことだ。おれが、彼女の秘密を知ってしまったのは。


「……え? 無理だよ、おれ今実習中だもん」


 没頭していたのだろうか。電話の相手が連絡してきた時間は、夜の2時近くを指していた。……非常識? 気心知れてる相手だから、それについては全然問題ないんだけど。
 起きてしまったのなら、ついでに明日の復習でもしながら電話の相手でもしよう。そんな風に思いながら下宿させてもらっている部屋のカーテンを開けた時だ。


「あ、ううん。なんでもないよ。綺麗な月夜だなと思っただけ」


 あの部屋は確か、一番上のお姉ちゃんの部屋だ。夜遅くまで勉強なんて。昼間は小さな弟たちの面倒を見るので大変だろうに。受験生だから、仕方ないのかな。
 じゃあ彼女の部屋の電気が消えるくらいまでは、電話に付き合ってやるか。そんな風に思っていた。


「はいはいわかった。じゃあ実習終わったらそっちに顔出すから。……はーいおやすみ」


 けれど、それが消えることはなく。話をしている間に、一階の台所と思しき場所に新しく電気が点く。
 初めは、飲み物でも飲みに行ったのだろう。軽い気持ちでその点いた電気を眺めていたけれど。それも、消えることはなかった。