すべての花へそして君へ③


「……そっか」

「……桃香?」


 そっか。知ってるのか。
 ……そりゃ、そうか。


「ちょっとね、可笑しいと思ったんだ」

「……?」

「あまりにもさ、やさしいから。……欲しい言葉を、くれるから」

「……」

「私の力になりたい……って、そういうことがあったからなんだ」

「……桃香……」


 私の手に、恐る恐る彼女の手が伸びてくる。触れた指先は、怖々と震えていた。


「怒ると思った?」

「……」

「……怒んないって。なんで、私のためを思ってしてくれたことに怒らないといけないの」

「……桃香」


 ……そっか。じゃああの時の言葉も。


〖元気出た?〗

 ……あの時の時間も。


『秘密の夜のお誘い』

 掴まれた、腕の痛みも。


『――ねえ! なんであんなことしたの!』

 全部全部、彼にとっては頼まれたこと。
 私の過去を知っていたから、それに同情した結果。


「桃香。確かに桜李君は、とてつもない腹黒ですわ」

「……今そんな話してたっけ?」

「可愛いウサギの皮を被った、小悪魔ですの。それは紛う方ない事実ですわ」

「……えっと」

「頼まれたからといって、安請け合いをするような方ではありませんわ。……必ず同等の対価を求めてきますの。時にはそれ以上」

「……な、何があったのひな子と桜李さんの間に……」

「けれど、そんな彼が今回ばかりは何も求めてきたりはしませんでしたのよ?」

「……はあ……」

「ですから、……どうか。自信を持ってくださいな」

「……自信、ね……」


 それは、……きっと彼の過去にも関係しているんじゃないだろうか。
 過去の自分と私を重ねて。だから、助けようと本気で思ってくれた。


“おれが医者を目指している理由はね、おれみたいな子を一人でも救ってあげたいと思ったからなんだ”


 そう言ってたもん。ね、桜李さん。


「(……この顔は、イマイチちゃんと伝わっていない顔ですわ。どう言えばきちんと桃香に伝わるでしょう……)」

「ふふ」

「……桃香?」

「ありがとう、ひな子」

「……本当に、怒りませんのね」

「怒んない。……怒ったら、ひな子が悪いみたいじゃん」

「桃香……」

「だから。……ありがとうひな子。いろいろしてくれて。いっぱい話聞いてくれて」

「……こちらこそ、ですわ」