「わかってるわかってる」と、可笑しそうに笑った彼は、ある家の前で車を止めた。
「ちょっとしー寝かせてくるね」
ありがとうと、オレにもたれて眠っているしーちゃんをそっと抱きかかえた彼は、小走りで家の中へと入っていった。
お父さんと言っていたし、さすがに疑ってはいなかったけれど、どうやら本当に彼の娘……らしい。
(……なんだ、なんでちょっと残念?)
女の子は父親に似ると言うけれど。オレの嫌いなところは似て欲しくないなって、心底思った。
「シズルさんって、一体何歳なんですか」
「あ、やっと俺に興味持ってくれた?」
「ああここでいいです、あとは自分で何とかして帰ります、槍が降っても歩いて帰ります」
「ごめんごめん、そう怒んないでよ」
やっぱりこの人とは合わない。
ま、降りようとしても案の定チャイルドロックかかってたけど。
「浪人したけど、現役の大学生だよ」
「……出来婚?」
「いやだなあ、既成事実を作ったまでだよ」
「じゃあ親に反対され……」
「二人目で止め刺した」
(そういえばもう一人女の子いたんだった……)
……うん。この人あれだ。いろいろ過去にやらかしちゃって大量にネタ持ってる人だ。
本気で朝になるから、やっぱりこの人のことは放っておこう。
「……それで、あいつは何て」
「うん。どうしてそう思ったのかって訊いてみたよ。生憎この時の俺には、否定する選択肢は残ってなかったから――」
……彼女は、声のトーンを一つ落とした。
『わたしのことを嗅ぎ付けて、誰かが接触してくることは予想していました。わたしは、それだけ多くの爪痕を残してしまった。そして、わたしの存在を知った誰しもがこう思うでしょう』
わたしを手に入れた者が、この天下を取ることができるかもしれない、と。
『この世の中は、醜い欲望の塊ですから。決して、わたし自身はそんな大それた奴だなんて思ってませんよ? 客観的にそう判断したまでで』
でもあなたはそうではない――彼女は、確信を持って否定をした。
『はじめは色仕掛けで、歳の近い人を寄越してわたしに取り入ろうとしたのかなと思いました。けれど、それは違うと思った。理由は簡単です。それだとあまりにも時期尚早だから』
公にしてはいないのに、どこから情報を得るのか。
答えは一つしかない。その情報を隠している大本だ。
『“不穏分子となり得る存在が気に入らなくて仕方がない。それなら、そうなる前に先に芽を摘んでしまえばいいじゃないか”……お偉いさんが考えることなんて、大方こんなところでしょう』
野放しにしておいて、いざという時何かが起こったら……。責任や誹謗中傷、世間の冷視は一体どこに向かうか。それは火を見るより明らかだ。



