すべての花へそして君へ③


「……桃香さん?」

「……めて」

「え?」

「やめてよ! もう!」


 彼女の腕をぎりぎりと掴み、睨み付ける。


「いっ、……も、桃香さん?」

「もう満足でしょう?」

「えっ?」

「私のことが嫌いなら、嫌いってはっきり言えばいいじゃない。桜李さんのことが気になってるなら、直接言えばいいじゃない」

「え! わ、私、そんなつもりは……」

「そんなつもりはない? ……ただ心配してただけなら、何故わざわざ過去の話を引っ張り出してきたの。必要ないじゃない」

「そ、れは……」

「帰って」

「桃香さん……」

「これ以上何か言われたら私、あなたに何するかわかんない」

「……」

「お願い。……おねがい」


 頭が痛い。嫌だもう。何も考えたくない。
 彼女に振り回されるのも、もう懲り懲りだ。苛々させないで。モヤモヤ、させないで。

 これ以上この人の前で、格好悪い姿晒させないで――。


「……いいえ。桃香さん、私は絶対引きません」

「……そんなに嫌がらせしたいの」

「違います。……不躾で申し訳ございません桜李様。桜李様はおいくつでいらっしゃいますか」

「……っ、は? 今そんな話を」

「21だね」

「……成人なさっていらっしゃいますが、まだ学生の身。……失礼を承知で言わせていただきますが、見た目だけでは私たちとそう大差ありませんわ。寧ろ幼いとさえ感じます」

「……そうだねえ」

「もし何かあった時、桃香さんを守っていただけるか。……誓われたとしても信用なりません」

「……ふざけないで」

「一般論を言ったまでです。……疑うのであれば、お店の方や他のお客様にお伺いしても――」


 気が付いたら、彼女の襟元を掴んでいた。もう片方の手は、高く振り上げていた。
 それでも、彼女は微塵も怖がらず。真っ直ぐ私を見つめてきていて。それがまた癪に障って。

 ……もう、限界だった。


「桃ちゃん」

「……離して」

「だめ」

「離して!」

「……」


 掴まれた腕は、どうやってもびくともしなくて。……私は、ゆっくりと腕を下ろした。


「ごめんね。桃ちゃんちょっと気が動転してるみたい。今日のところは引いてくれる?」

「……けれど……」

「実は迎え呼んであるんだ。おれも傘持ってなかったし」

「……」

「……大丈夫。心配してくれてありがとね」