すべての花へそして君へ③


「お取り込み中のところ申し訳ありません」

「……!」


 そうだ。この子のことすっかり忘れていた。


「初めまして桜李様。私、桃香さんのクラスメイトで」

「あ、どうもこんばんは! ご丁寧にどうもー」

「不躾で申し訳ありませんが、桜李様は桃香さんのところの実習生ではないですか?」

「え! 何で知ってるの! ビックリ!」

「先日、妹が先生にお世話になりまして。その付き添いで私もお伺いしていたものですから」

「おお、そうだったんだねえ~」


「妹さんはもう元気?」「はい、すっかり元気になりました。その節はお世話になりました」と、楽しそうな彼らの会話にまた、私のもやもやとした嫌な気持ちが、沸々と湧き上がってくる。


「それで、先程もお話ししていたのですが、お送りさせてくださいませんか? よければ桜李様もご一緒に」

「え?」

「桜李様も傘をお持ちではないようですし、桃香さんも沢山買い物をなさったようなので」

「あら、本当。何買ったの桃ちゃん……」

「なので、本当に宜しければ。天気予報を確認しましたところ、しばらくは雨も上がらないようですから」

「んーそうだねえー」


 俯いている私の方を、彼が見ているような気配を感じる。
 でも、今顔は上げられない。今絶対私、すごい酷い顔、してる。


「……どうする桃ちゃん。おれは桃ちゃんに合わせるよ?」

「……気持ちだけ、受け取らせてもらいます。遠回りになっちゃうし、雨で濡れちゃうし。迷惑をかけるわけには」

「迷惑だなんてとんでもないですわ。私はただ、桃香さんのことが心配で」

「ええ。だから、ありがとう。気持ちだけで十分嬉しい」

「桃香さん……」

「だからあなたも、早いうちに買い物済ませて? ご両親が心配なさる前に」


 上手く、取り繕えただろうか。ちゃんと、伝われば。引いてくれれば、いいんだけど。


「……いいえ。やはりお家まで送らせていただきますわ」

「え。……い、いやだから」

「私、心配ですの。また昔みたいに、桃香さんがいなくなってしまうのが」

「――――」

「今ぐらいの時期でしたでしょう? 保育園の組のみんなでお外に遊びに行った時に。……あなたが誘拐されてしまったこと、私は今も鮮明に覚えていますわ」


 ……なんで今、そんな話をするの。
 どういうつもりで、今そんな話聞かせてるの。


「お友だちがいなくなってしまったことが、とてもとても怖かったですわ。……あんな思いは、もう二度としたくありません」


 今ここで、それを言う必要があった?


「ごめんなさい桃香さん。私もこれは譲れません。……送らせてくださいな」


 桜李さんの目の前で。彼に聞かせる必要があった?