すべての花へそして君へ③

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「うわ。遅くなっちゃった……」


 やっぱり、明日のお昼前にもう一回買い出しに来るべきだったかもしれない。……雨の中大荷物で町中をうろうろするものではないわね。もうやめよう。
 けど、必要なものは無事全部買えた。あとは帰るだけだ。そう思って、雨宿りさせてもらっていたお店から出ようとした時だ。


「……あら? どなたかと思えば、桃香さんじゃありませんこと」


 まさか、こんな町中でクラスメイトに出会すとは思わなかった。


「御機嫌よう。生憎の雨ですわね。桃香さんもお買い物ですの?」

「ご機嫌よう。……ええ。あなたも?」

「そうですの。友人からここのスウィーツが美味しいと聞きまして」

「あ、そうなんですね」


 可愛くて明るくて賢くて、クラスでも人気のある子だけれど、私は苦手だ。……あの笑顔の向こう側に、隠しているものがあることを、知っているから。早く、この場から立ち去ってしまおう。


「それでは、そろそろ私は……」

「ご両親はお二人ともお仕事かしら」

「え? え、ええ……」

「弟さん妹さんも、まだお小さいと聞きましたわ。……桃香さんが家事全般を?」

「……そうですね。大抵のことは」

「まあ、大変ですのね」


 口ではそう言っても、その顔の裏側では、そんなこと一つも思ってない。

〖やぶいしゃのこは、こねをつくるのでたいへんなのだとききましたわ〗

 ……言いたいことがあるなら、はっきり言えばいいのに。


「そういえば、今実習生が来ていらっしゃるとか」

「え?」

「あら。……結構噂になっていますのよ。可愛らしい方がいらっしゃるとかで」

「……」


 ……そうか。わかった。彼女が、私を引き留めている理由。


「先日、私も妹の付き添いで桃香さんの病院にお邪魔させていただいたんです。皆様美丈夫な方たちですわね。なんでも、一つ屋根の下で一緒に住まわれているとか」

「……一緒に住んでると言っても、下宿先は敷地内の少し離れたところですから」

「それでも毎日顔を合わせていらっしゃるのでしょう? ……少し、羨ましいですわ」

「挨拶する程度で、それ以上の不要な会話はしませんよ。仮にも彼らは実習生ですから」

「あら。そうですの? 私が聞いた話ですと、弟さん妹さんたちとよく遊んでいると」

「……そうですね、彼らは」


 頭が、痛い。


「そうですわ。ここで桃香さんに会ったのも何かのご縁です。よければお送りさせてくださいな」

「……え? いや、流石にそれは……」

「けれどまた雨脚も強くなりましたし、その荷物では大変でしょう? 濡れてはいけないものもあるのではなくて?」

「……」


 帰りたい。


「やっぱりそうですのね。だったらそうご遠慮なさないで。すぐそこに車を止めておりますから、こちらまで回させますわ」


 今すぐ、帰りたい。


“何かありましたら、一番にあたくしを呼んでくださいな。すぐに駆けつけますから”


 ……ひな子。


「――桃ちゃん」


 桜李さん……。