すべての花へそして君へ③


 あんな風に言ったものの、明日は通常の一日を過ごすわけで。実質企画や準備に割く時間はほとんどないわけで……。


「……まあ、だいたいこんなもんで……」


 部屋の装飾は簡単に。打ち上げのメニューも、弟たちが好きなものばかりになってしまったけど、まあこんなものでいいとして。
 あとは、お父さんとお母さんに一人一人メッセージ書いてもらって。……だいぶお世話になったから、弟たちにも一言書かせよう。


「わ。もうこんな時間」


 気付けば夜の1時を回っていた。まだお風呂に入ってすらいないのに。……まだ全然できてないのに。
 引ったくるようにパジャマと紙袋を持って家中をダッシュ。そういえば明日の塾の予習もまだだった……!

 みんなを起こさないように。足音はなるべく立てず。猛スピードで風呂から上がり、コップ一杯水でも飲みに行こうとしたところで、台所から何か物音が聞こえたような気がした。

 ……不審者? でも、防犯装置が作動してないし……。
 念のためを思ってスマホを片手に、静かに台所に繋がる扉を開ける。


 もしかしたら――そんな予感は、いやまさか。と、自分の中ですぐに否定した。
 けれど、心のどこかでわずかに期待していたのかもしれない。


「あ、……こんばんは桃ちゃん。今夜も綺麗な月夜だよ」


 月明かりに照らされる彼を見て、少しだけ。鼓動が速くなったから。
 昨夜は電話をしていたから。でも今夜は何故……?
 暑くて寝苦しいのだろうか。それともあなたも、嫌な夢を見たの……?

 ……今夜も、ドライブに行くのかな。


「何か飲まれますか?」


 昨夜と同じく、窓枠に腰掛けている彼は手をそっと上げただけに止まる。多分いらない方だ。少し残念。
 冷蔵庫からアイスコーヒーを出し、コップに注ぐ。月を見上げていた彼から、少し離れた場所に立って、その横顔をそっと盗み見た。


「……ちょっと、責任感じて」

「……責任?」


 うん。と、一度頷いた彼はそのまま少し、視線を落とす。
 長いまつげの、影がはっきりと。その白い肌に浮かび上がって。それが少し、艶っぽいと思った。