あんな風に言ったものの、明日は通常の一日を過ごすわけで。実質企画や準備に割く時間はほとんどないわけで……。
「……まあ、だいたいこんなもんで……」
部屋の装飾は簡単に。打ち上げのメニューも、弟たちが好きなものばかりになってしまったけど、まあこんなものでいいとして。
あとは、お父さんとお母さんに一人一人メッセージ書いてもらって。……だいぶお世話になったから、弟たちにも一言書かせよう。
「わ。もうこんな時間」
気付けば夜の1時を回っていた。まだお風呂に入ってすらいないのに。……まだ全然できてないのに。
引ったくるようにパジャマと紙袋を持って家中をダッシュ。そういえば明日の塾の予習もまだだった……!
みんなを起こさないように。足音はなるべく立てず。猛スピードで風呂から上がり、コップ一杯水でも飲みに行こうとしたところで、台所から何か物音が聞こえたような気がした。
……不審者? でも、防犯装置が作動してないし……。
念のためを思ってスマホを片手に、静かに台所に繋がる扉を開ける。
もしかしたら――そんな予感は、いやまさか。と、自分の中ですぐに否定した。
けれど、心のどこかでわずかに期待していたのかもしれない。
「あ、……こんばんは桃ちゃん。今夜も綺麗な月夜だよ」
月明かりに照らされる彼を見て、少しだけ。鼓動が速くなったから。
昨夜は電話をしていたから。でも今夜は何故……?
暑くて寝苦しいのだろうか。それともあなたも、嫌な夢を見たの……?
……今夜も、ドライブに行くのかな。
「何か飲まれますか?」
昨夜と同じく、窓枠に腰掛けている彼は手をそっと上げただけに止まる。多分いらない方だ。少し残念。
冷蔵庫からアイスコーヒーを出し、コップに注ぐ。月を見上げていた彼から、少し離れた場所に立って、その横顔をそっと盗み見た。
「……ちょっと、責任感じて」
「……責任?」
うん。と、一度頷いた彼はそのまま少し、視線を落とす。
長いまつげの、影がはっきりと。その白い肌に浮かび上がって。それが少し、艶っぽいと思った。



