「苦労なさったのですね、その方も」
「……」
「恐らく、沢山悩んだことがお有りなのですわ」
「……うん。そうね」
彼は、全く教えてくれなかったわけじゃない。それを、わかっていないわけじゃないんだ。
施設、病院、我慢。……おれみたいな子。
【それに、言いたいことはね? 文字にすればいいんだよ!】
【……はい?】
【それが、どうしても言えないことなら、尚更ね?】
これがきっと、彼の過去であることも。
――今夜はもう遅いから。
そうして線を引かれてしまったら普通、なかなか踏み込みには行きにくい。……けれど。
――また今度。
そう言った彼の顔は、申し訳なさそうな顔はしていなかったから。
本当に、その“また今度”を楽しみにしているような笑顔だったから。きっとまた、教えてくれる。そう思う。
「そういえば、明後日まででしたでしょうか」
「……何が?」
「実習がですわ」
「……え?」
「土曜日の午前中まででしょう? 実習生の方々がいらっしゃるのは」
「……あ、うん。そうね」
「それを乗り越えさえすれば、待ち望んでいらっしゃったあなたの平穏がやってくるわけですわね」
「……うん。そう、ね」
友人の言うとおり、それをずっと待ち望んでいたはずなのに。……どうしてこう、負の感情しか湧き上がってこないのか。昨日までは、そんなこと微塵も思わなかったのに。
(……私が、彼の隣に並んでも可笑しくないくらい大人になったら、もう一度聞いてみようかなって思ってたのに……)
きっと私が踏み込みさえすれば、今すぐでも教えてくれるんだろうけれど。……それは、嫌だ。
彼が、話すことをきちんと受け止めたい。受け止めた上で、彼に言葉を伝えたい。……なのに。タイムリミットのこと、すっかり忘れてた。
「……何かなさいませんの?」
「……何かって?」
「打ち上げとか」
「……打ち上げ」
「お礼とか?」
「お礼……」
流石に、あと三日で大人になれっていうのは無茶というものだ。……でも。あと二日あれば、その準備はなんとか間に合いそう。
「勿論、ここはサプライズですわね」
「……喜んでくれるといいけど」
「あたくしもお手伝いさせていただきますわ。ですので、頑張りましょう桃香」
「うん。……ありがとう」
「はい。……そして、彼を驚かせて差し上げるのですわ!」
「ちょ、……なんで限定なの」
「ここはアレです。大人の色気出していきますわよ」
「出すかー!」



