【またあいつがトップだってよ】
【先生方のご機嫌取りまで、お忙しいことですこと】
〖やぶいしゃのこは、こねをつくるのでたいへんなのだとききましたわ〗
“――……誰か。……っ、だれ、か……”
思わず目を瞠っていると、隣の彼がすっくと腰を上げる。そして何も言わずにその場を立ち去ろうとする。
「……あ、あの……!」
何よこれ。やるだけやって放置? それとも突っ込み待ち?
なんで、そんな話聞かせたの。なんで、こんなこと書いたの。
「ん? そろそろ帰ろ。桃香ちゃん」
「それは、その。勿論帰りますけど」
「知ってる? 我慢はねえ、一番体によくないことなんだよー」
「え?」
「だから、寝たくない時は無理に寝る必要はないと思うしー」
「……」
「それに、言いたいことはね? 文字にすればいいんだよ!」
「……はい?」
「それが、どうしても言えないことなら、尚更ね?」
「……」
それだけ言って、彼は背を向けて歩いて行く。恐らく、私だけ置いて帰るようなことはしないだろうけど。
「……なんで、わかるんだろう」
彼の文字に、そっと触れた。
昼間の夏の熱い日差しをずっと浴び続けていたからだろうか。何故か、少しだけあったかく感じた。
その後車に戻ると、助手席の前で彼は優しい笑みを浮かべて待っていた。
「おかえり」
「あ。……は、はい」
「それでー? なんて書いたの?」
「……何故、あなたに言わないといけないんですか」
「ん? ……知りたいから!」
「……はあ」
助手席の扉を開け促す彼にため息を吐きながら、行きは乗る勇気が出なかったそこへ、足をそっと踏み入れる。
「子どもが運転しているみたいだなと」
「え?」
「車が似合わないと書きました」
「えー!」
「一番似合うのは三輪車かもとも」
「ももちゃん! そんなこと思ってたの!」
「も、……ももちゃん……」
「そんなつれないこと言うんだったら、これからはももちゃんです。由来は、お尻が桃みたいだから、ですっ」
「……人間誰しも桃みたいですよ……」
「いいの! もうももちゃんって呼んじゃうからあ!」
〈元気出ました
ありがとう〉
帰りの車の中はとても賑やかで。私の右側は、とてもあたたかかった。



