すべての花へそして君へ③


【またあいつがトップだってよ】
【先生方のご機嫌取りまで、お忙しいことですこと】
〖やぶいしゃのこは、こねをつくるのでたいへんなのだとききましたわ〗

“――……誰か。……っ、だれ、か……”


 思わず目を瞠っていると、隣の彼がすっくと腰を上げる。そして何も言わずにその場を立ち去ろうとする。


「……あ、あの……!」


 何よこれ。やるだけやって放置? それとも突っ込み待ち?
 なんで、そんな話聞かせたの。なんで、こんなこと書いたの。


「ん? そろそろ帰ろ。桃香ちゃん」

「それは、その。勿論帰りますけど」

「知ってる? 我慢はねえ、一番体によくないことなんだよー」

「え?」

「だから、寝たくない時は無理に寝る必要はないと思うしー」

「……」

「それに、言いたいことはね? 文字にすればいいんだよ!」

「……はい?」

「それが、どうしても言えないことなら、尚更ね?」

「……」


 それだけ言って、彼は背を向けて歩いて行く。恐らく、私だけ置いて帰るようなことはしないだろうけど。


「……なんで、わかるんだろう」


 彼の文字に、そっと触れた。
 昼間の夏の熱い日差しをずっと浴び続けていたからだろうか。何故か、少しだけあったかく感じた。


 その後車に戻ると、助手席の前で彼は優しい笑みを浮かべて待っていた。


「おかえり」

「あ。……は、はい」

「それでー? なんて書いたの?」

「……何故、あなたに言わないといけないんですか」

「ん? ……知りたいから!」

「……はあ」


 助手席の扉を開け促す彼にため息を吐きながら、行きは乗る勇気が出なかったそこへ、足をそっと踏み入れる。


「子どもが運転しているみたいだなと」

「え?」

「車が似合わないと書きました」

「えー!」

「一番似合うのは三輪車かもとも」

「ももちゃん! そんなこと思ってたの!」

「も、……ももちゃん……」

「そんなつれないこと言うんだったら、これからはももちゃんです。由来は、お尻が桃みたいだから、ですっ」

「……人間誰しも桃みたいですよ……」

「いいの! もうももちゃんって呼んじゃうからあ!」


〈元気出ました
 ありがとう〉


 帰りの車の中はとても賑やかで。私の右側は、とてもあたたかかった。