すべての花へそして君へ③


「施設から抜け出してきちゃったみたいなんだけどね」


 でも比較的元気な子で、抜け出したはいいものの別に家出がしたかったというわけでもなく。……ただ、帰る道がわからなくなったとか。


「“病院”っていう場所がどういうところなのかは、よく知ってたからって」

「……」

「だから、お腹も空いてたからご飯も食べたいって言ってたっけ」

「……え」


 それは、……まあ何というか。元気ならそれで、いいんですけど。
 そして、施設の方に連絡を入れて迎えが来るまで、彼はその子と話をしたそうだ。


『施設は好き?』

『好きでも嫌いでもない』

『学校は?』

『勉強は好き』

『どこに行こうとしてたの?』

『友だちに会いに行ってた』

『そのお友だちはどこにいたの?』

『病院』

『そっか。何て言う子?』

『モモ』

『ももちゃん?』

『うん。……すげーいい子なんだ』

『うんうん』

『んで、すげー可愛くて、撫でてやったらシッポ振って喜んで』

『うんう、……ん?』

『あ! モモっていうのは、お尻が桃みたいだからモモって、俺がつけたんだ』

『……ももちゃんって、女の子?』

『メスだ! 柴犬の!』


「っていうオチでねえ? これは絶対に桃香ちゃんに聞かせてあげなきゃ! って思ったんだよ~」


 危うく口から麦茶吹き出すところだったんだけど。
 そういう話をするために、わざわざこの人は、夜の海に連れてきたというのか。……こんなことで受験生振り回すなよ。

 ふと、視線を落とすと、砂浜に何か文字が書いてあった。


《元気出た?》