「おれのこと待ってるみたいだから。……ん? うん、また今度の日曜日ね。それじゃ」
……いや、待ってない。別に待ってないから。本当、断じて、待ってないから。
カラカラカラ……と、斜め上から窓の網戸が開く音が聞こえる。「よいしょっと!」と、慣れたように軽々身を乗り出して台所を覗き込んでくるその人は、私の姿を見つけると何故か嬉しそうに顔を綻ばせた。
「もーもかちゃんっ」
「別に待ってません」
「でも盗み聞きしてたよね?」
「たまたま聞こえただけです」
「立ち聞きしたよね?」
「立ってません。座ってただけです」
素直に認めない私をおかしそうに見つめながら、彼はそっと窓枠に腰掛ける。
「綺麗な夜空だね」
月光が、いつも元気な笑顔へ、わずかに影を落とした。
「……あ、の」
「……ん?」
「何か、あったんですか?」
「……え?」
驚いたように目を丸くする彼は、パチパチと瞬きを繰り返しながらこちらを不思議そうに見てくる。
……わかってる。自分でもらしくなかったなって、今ちょっと思ってるから。だから、なかったらないってはっきり言って。体に穴が空きそうだから。
「……ねえ桃香ちゃん」
「……はい」
「付き合ってくれない?」
「……はい?」
言葉の意味が上手く理解できず首を傾げている間に、彼はすとんと私の隣へ腰を下ろす。
驚く間もなく差し出された手のひらに、ますます理解が追いつかない。
「女子高生の上受験生だし、本当はあんまり連れ回さない方がいいんだろうけどねえ」
「……あ、あの……?」
「秘密の夜のお誘い」
「えっ……?」
「どうかな」
「……え、えっと……」
普段なら、悩むことはなかっただろう。ましてやこのラブリー宇宙人のお誘いとか言語道断。冷静な判断ができたはず。
だからきっと、これは何かの間違いだ。
夜遅いから、半分寝ぼけてるんだ。それから、昼間に目と耳と、いろいろやられてるし。あと、やっぱりこの人人間じゃないんだよ。たぶんラブリー宇宙人だからさ、ラブリーな魔法が使えるんだよ。誘導的なさ。
「少しだけでいいから、よかったら付き合って? もちろん、無理にとは言わないけど」
「……」
「ダメかなあ」
「す、……少しで、よかったら」
だから違う。
少しだけ、泣きそうに見えたからとか。秘密という響きに、少し誘惑されたとか。愁いを帯びた表情がかっこよく見えたとか。……そんなの絶対違う。



