すべての花へそして君へ③


 頭を撫でてこようとする気配に、自然を装ってそれを躱す。……違う。手が泡だらけだったとかが理由じゃないから。手を拭いたって撫でさせやしないから。何回もチャレンジしてくるな。


「……っ、本当に、別に何もありませんから」


 ここは逸らしたら絶対ダメなところだと思って、じっと見つめてくる彼の瞳をひたすら見つめ返していたけれど……。


「そんなに見つめられたら、おれ照れちゃうっ」


 可愛いと思ってやってる絶対。……あーもう、クソ可愛いんですけど。


「……ごほん。本当に、心配されるようなことはありませんから」

「そっかあ! じゃあおれの勘違いだね!」


 にこって、そこら中にファンシーな花を撒き散らしながらまた満面の笑顔で笑いやがる。……彼を見ていたら、なんか目が痛くなる。


「ちょっとねー、元気ないような気がしたんだけどねー」

「は、はあ……」

「元気ならよかった! それじゃあおやすみい!」

「はい。おやすみなさい」


 今日は、耳もちょっと痛いかも。なんでいつもいつも、そんなに元気なのかなこの人……。
 体はすっかり疲れているのに、夜中に目が覚めると無性に腹が立つ。というか、なんか損した気分になる。けれど冴えてしまったものは仕方がない。少し喉も渇いたし、また飲み物でも飲んですぐ寝ることにしよう。


(……こんな遅くに誰?)


 台所を出ようとすると、窓の外からわずかに声が聞こえてくる。……何を話しているのかはわからないけれど、この声はものすごく聞き覚えが。
 というか、今聞きたくない声No.1だ。


「――迷惑なわけないでしょ。え? ……うん、まあそうだけどさ。いやいや大丈夫だから。今さっき勉強も終わったし、気にしないでいいから」


 夜の二時の静寂は、意識を向けさえすればその言葉の意味もはっきりと理解できるらしい。
 内容から察するに、近況報告と言ったところ。遠慮のない様子から、定期的に連絡を取り合っている仲のよう。
 夜中だからという理由もあるんだろうが、いつもよりも少し声が低く落ち着いた声だ。やさしさがあって、あたたかみがある……気がする。


(……相手は女の人……?)


 今窓の向こう側で、私の知らない顔で笑っているのだろうか。


「――っとごめん。そろそろ切っていい? いや、そういうわけじゃないんだけどさ」


 何故か、少し物悲しい。侘しい。


「夜更かししている悪い子に、少しお仕置きしないといけないなーって」


 ……ん? 夜更かし?