「……はあ」
友人の姿が完全に見えなくなってから、もう一度ため息を落とす。
憂鬱だ。夕方またあの、人という人を越えて家に帰らないといけないのだから。……一体誰だ。あのものクソ可愛い実習生がうちにいるなんて事実をばらまいた奴は。
「……我慢、か」
禁断症状が出始めている。けど、別に我慢することが嫌いなわけではないし、寧ろ燃える。我慢した先に何があるのか、私は身をもって知っているから。
だから、この先に何があるのか。……もしかしたら本当は、それが知りたいだけなのかもしれない。
ひな子が聞いたら、「そういうのをマゾヒストというのですわ」なんて言われそうだけど。
「ねえね! にいにがお気に入りのコップ割ったあ!」
「だ、……だからごめんってば」
「……ん。よしよし。兄ちゃんも反省してるから許してあげて? 代わりに……はい。この可愛いコップあげる」
「え! ……でもこれ、ねえねの……」
「いいの。……私にはもうちょっと幼いかなって思ってたから。その代わり、もう泣かないこと。わかった?」
「うんっ!」
「――ねえちゃんねえちゃん! 今日のばんごはん何!」
「あんたの好きな煮込みハンバーグよ」
「うおおお! でかいの! でかいの作って!」
「……ご飯までに宿題済ませられたら、作ってあげようかな」
「!!!! がんばる! やくそくだからな!」
「はいはい」
本日も何とかあの人並みを越えたが、帰宅して早々弟たちに絡まれる始末……。慕ってくれてるのは素直に嬉しいけれど。
(……いいなあ受験勉強のない日々)
そしてこの感情の素直さを見て。
……ああ、今日もみんな可愛いったらないわ。
「……そうそう、姉ちゃん今から保育園迎えに行かないといけないから、何かあったら表の父さんと母さんに言うのよ」
それまでいい子で待っててね――二人の頭をそっと撫で、自転車を飛ばす。
……あー。弟たちに癒やされてはいるけれど。今日も一日、ハードだわ。
こういう、すごい疲れた日に限って、変な夢とか見ちゃうんだよなあ。……やだやだ。
「桃香ちゃん、学校で何かあったのお?」
「……え?」
小さな病院に泊まり込みで勉強を続けている物好きな実習生たちと、たまに食事も一緒にすることがある。そのうちの一人が、食器洗いを手伝ってくれながらふいにそうこぼす。……よりにもよってそれが、ラブリー宇宙人ときた。
「いえ、特には」
「ほんとうにい?」
「はい」
「勉強で疲れてるとかかなあ? ほら、受験生だから」
「勉強で疲れたことなんかありません」
「ええそうなの!? すごいね! えらいねえ~」



