「……肩肘張らないでいいんですのよ。普段のあなたらしくしていれば、それがあなたの理想ですわ」
「最近禁断症状が出だしたんだよね」
「……我慢するからですわ。いい加減お止めになれば宜しいのに」
「いいの。きっと、これを超えられたら何か変わる気がするから」
「……そんなもの超えなくて宜しいので、キャッキャウフフな展開を急募ですわ」
「だから、それはないから」
確かに、あの人に言われたことを意識してはいるけれど、決して彼をそんな風に見たことはない。というか見るつもりもない。
「わかる? あれはもうね、可愛さの塊なの。人の手を加えてはいけない代物なの。できることなら私だって、病院の前で見てるだけで終わらせておきたいの!」
「つまりませんわ」
だから、友人が危惧しているようなことは、これから一切何も起こることはない。
「危惧などしてはおりませんわ。これは天性の野次馬根性。からの、女子高生にはなくてはならない恋バナを、全力で期待しておりますの」
「そういうの何て言うか知ってる?」
「“余計なお世話”ですわね」
「……」
いや、だからそれだと、私があの人のこと好きみたいに聞こえるから。
けれどそんな返答してくるもんだから、訂正する気力はすっかり削がれてスッカラカン。足を投げ出すようにして座ると、隣の友人は心配そうな顔でこちらに視線を寄越してくる。恐らく、明日から夏休みに入ることを危惧しているのだろう。
「……何でしたら、いつでもご招待致しますわ」
「……急に何」
「急ではありません。ほら、模試もあることですし」
「……まさか、あの人がいるせいで判定落とすとか思われてるの」
「いえ、そんなことは1ミリたりとも思ってはいませんけれど」
「取ってやるわよええ。絶対A判定」
「人の話はお聞きになって」
「早速、今日から追い込んでやるわ。見てなさい? 実習生なんか……けちょんけちょんにしてやんだから」
「趣旨が変わってますわ……。全く、この子はお母様のお腹からではなくプライドの塊からお生まれになったのですわね」と、やれやれ息を吐いた友人は、開いていた重箱を丁寧に戻し、ちゃっちゃと三つ編みを編み眼鏡をかける。
「それでは、また塾の方でお会いしましょう? お互い素敵な夏休みになるといいですわね」
「……え、ええ。そうですわね……」
すっと立ち上がってこの場を去って行く彼女の、あまりの変貌ぶりに思わずため息を吐いた。
いつも思うが、昭和風の風貌にみんな騙されているけれど、口調や仕草からして、きっといいとこのお嬢様だ。否、絶対そうだ。



