「ビンビンですわ!」
本当、今すぐ帰ってきて私の平穏。
「恋の匂いがビンビンですわ!!」
「それを言うならせめてプンプンではないかしら……」
彼が来てからというもの、私の安息の地はこの学友の隣だけ。にも拘わらず、開口一番この調子で夏から冷やかされる始末。正直、もうこの遣り取りにも飽きた。
「で? どうですの実習生は」
「どうもありません」
「お医者の卵ではありませんか。……狙いませんの」
「狙いません」
「年上の殿方といえば、お父様以外にはいらっしゃらないのでしょう? こう、きゅんとか鳴りませんの? 胸の方」
「鳴りません」
「……あ。そうですわよね。鳴る程お胸もありませんものね……」
「……喧嘩売ってるなら今すぐ買いますけど?」
「もう。これだから野蛮人は。もっと性格可愛くなければ、射止められるものも射止められませんわよ?」と、横で重箱に箸を付ける友人に、冷ややかな視線を送る。
「……あのね、何度も言うようだけど、私の理想の人は」
「クールで格好良くて大人な人なのでしょう? 聞き飽きましたわ」
「ちょっと」
「けれどあたくし、よくよく存じ上げておりますの」
そして重箱の下段から、食後のデザートの大福餅を取り出し、それを事も有ろうに私の目の前でちらつかせてくる。
「あなたは、根っからの子ども舌」
右へ。
「甘いものには目がなくて、特にプリンがお好きですわ」
左へ。
「そして何より、可愛いものには目がないと」
そして、正面へ。
くれるのかそのまま私の手の平の上に乗せてくれた。……有り難くいただこう。決して、食べ物につられたわけじゃないけれど。
「水を向けたようですが、そう簡単には乗りませんわよ」
「……別に、話題を逸らしたわけじゃ」
「気付いていないとでもお思いですの? “クールで格好良くて大人な人”というのは、あなた自身の理想ではありませんの」
「……」
「あら。反論がお有りならお聞かせくださいませ」
「……はあ。ありませんよ」
だって、あんなことを言われてしまったら――。
“桃香ちゃんって、クールで格好良くて、すっごく大人っぽいね! なんか尊敬しちゃうなあ”
そうであろうと、そうでなくちゃと。……つい思ってしまう。



