すべての花へそして君へ③


「ビンビンですわ!」


 本当、今すぐ帰ってきて私の平穏。


「恋の匂いがビンビンですわ!!」

「それを言うならせめてプンプンではないかしら……」


 彼が来てからというもの、私の安息の地はこの学友の隣だけ。にも拘わらず、開口一番この調子で夏から冷やかされる始末。正直、もうこの遣り取りにも飽きた。


「で? どうですの実習生は」

「どうもありません」

「お医者の卵ではありませんか。……狙いませんの」

「狙いません」

「年上の殿方といえば、お父様以外にはいらっしゃらないのでしょう? こう、きゅんとか鳴りませんの? 胸の方」

「鳴りません」

「……あ。そうですわよね。鳴る程お胸もありませんものね……」

「……喧嘩売ってるなら今すぐ買いますけど?」


「もう。これだから野蛮人は。もっと性格可愛くなければ、射止められるものも射止められませんわよ?」と、横で重箱に箸を付ける友人に、冷ややかな視線を送る。


「……あのね、何度も言うようだけど、私の理想の人は」

「クールで格好良くて大人な人なのでしょう? 聞き飽きましたわ」

「ちょっと」

「けれどあたくし、よくよく存じ上げておりますの」


 そして重箱の下段から、食後のデザートの大福餅を取り出し、それを事も有ろうに私の目の前でちらつかせてくる。


「あなたは、根っからの子ども舌」


 右へ。


「甘いものには目がなくて、特にプリンがお好きですわ」


 左へ。


「そして何より、可愛いものには目がないと」


 そして、正面へ。
 くれるのかそのまま私の手の平の上に乗せてくれた。……有り難くいただこう。決して、食べ物につられたわけじゃないけれど。


「水を向けたようですが、そう簡単には乗りませんわよ」

「……別に、話題を逸らしたわけじゃ」

「気付いていないとでもお思いですの? “クールで格好良くて大人な人”というのは、あなた自身の理想ではありませんの」

「……」

「あら。反論がお有りならお聞かせくださいませ」

「……はあ。ありませんよ」


 だって、あんなことを言われてしまったら――。

“桃香ちゃんって、クールで格好良くて、すっごく大人っぽいね! なんか尊敬しちゃうなあ”

 そうであろうと、そうでなくちゃと。……つい思ってしまう。