すべての花へそして君へ③


「あのねあのね? さっき患者さんが話してたんだけどお、つい最近とっても可愛いパティスリーがオープンしたんだってー」

「……は、はあ……」

「それでねそれでね? そこのカスタードプリンがものすーっごく美味しかったんだってー!」

「……そうですか」


 話をする彼の、周りに蝶やら花やら、何かファンシーなものが飛んでいるように見えた。てかこれ、完全に目がおかしくなるくらいには疲れてるよね私。


「だからね? 今度」

「私、甘いもの嫌いなので」

「え! ……そう、なの?」

「はい」

「本当に? 美味しいのに?」

「ええ、本当に。……」


 しょんぼりしないでよ。私が悪いみたいじゃん。
 そんなに行きたいなら、あなたのこと一目でも見に来ようとしてる母親でも、外の女子高生でも女子大生でも、好きな子誘えばいいじゃない。


「……っ、失礼します」

「あ。……うんっ。またね!」


 このままではもうヤバいと、慌てて彼に背を向けて奥へと消えた。
 弟妹たちの空腹の声を背中に浴びながら、家の中を一目散に駆け抜けて自室に直行。バタンと、背中で思い切り扉を閉めた。


「……な、何なの。あんなに可愛さ振りまいて、私のことどうするつもりなの……!?」


 手近にあったものを引っ掴み、そのままベッドにダイブする。そして気付く。……今何を言った私。


「……羨ましい」


 ほら。また何を言ったの私。
 あのラブリー宇宙人の何が羨ましいって? どこに羨む要素があったって? あんなにいつもキラキラヘラヘラして、いっつも変なもの振りまいてる人の、……何が羨ましいだって?


「……冗談じゃない」


 私の理想は、クールで格好良くて、大人な人なんだから。


「……くう。でもあの可愛さはもう罪でしょう……」


 抱き締めた枕が、そんな戯れ言も気持ちも全部吸い取ってくれればいいのに。

 ――ドンドンッ


「ねえね!」

「ねえちゃんってば!」

「おなかすいたあー!」

「……わかった! わかったから絶対部屋の中に入らないで!」


 ああもう、早く戻ってきて。私の平穏だったはずの日常様。