「あのねあのね? さっき患者さんが話してたんだけどお、つい最近とっても可愛いパティスリーがオープンしたんだってー」
「……は、はあ……」
「それでねそれでね? そこのカスタードプリンがものすーっごく美味しかったんだってー!」
「……そうですか」
話をする彼の、周りに蝶やら花やら、何かファンシーなものが飛んでいるように見えた。てかこれ、完全に目がおかしくなるくらいには疲れてるよね私。
「だからね? 今度」
「私、甘いもの嫌いなので」
「え! ……そう、なの?」
「はい」
「本当に? 美味しいのに?」
「ええ、本当に。……」
しょんぼりしないでよ。私が悪いみたいじゃん。
そんなに行きたいなら、あなたのこと一目でも見に来ようとしてる母親でも、外の女子高生でも女子大生でも、好きな子誘えばいいじゃない。
「……っ、失礼します」
「あ。……うんっ。またね!」
このままではもうヤバいと、慌てて彼に背を向けて奥へと消えた。
弟妹たちの空腹の声を背中に浴びながら、家の中を一目散に駆け抜けて自室に直行。バタンと、背中で思い切り扉を閉めた。
「……な、何なの。あんなに可愛さ振りまいて、私のことどうするつもりなの……!?」
手近にあったものを引っ掴み、そのままベッドにダイブする。そして気付く。……今何を言った私。
「……羨ましい」
ほら。また何を言ったの私。
あのラブリー宇宙人の何が羨ましいって? どこに羨む要素があったって? あんなにいつもキラキラヘラヘラして、いっつも変なもの振りまいてる人の、……何が羨ましいだって?
「……冗談じゃない」
私の理想は、クールで格好良くて、大人な人なんだから。
「……くう。でもあの可愛さはもう罪でしょう……」
抱き締めた枕が、そんな戯れ言も気持ちも全部吸い取ってくれればいいのに。
――ドンドンッ
「ねえね!」
「ねえちゃんってば!」
「おなかすいたあー!」
「……わかった! わかったから絶対部屋の中に入らないで!」
ああもう、早く戻ってきて。私の平穏だったはずの日常様。



