「言ったでしょ。オレはオレでしておきたいことがあるから、まだ時間はたっぷりあるよ。よかったねーオレが年下で」

「……ふがっ」


 拗ねた様子で鼻を抓んでくる彼は、やっぱりちょっと怒ってるのかもしれない。
 なんでかって? ……んー多分、全力疾走させたからかな。


「だからさ、あんたの大切なもの。オレにも大切にさせて欲しいんだけど」

「……ひなたくん」

「いつなんてこと、オレにはわからないよ。今わかるのは、ただあおいと一緒にいたい。それだけ」

「……うん」


 こつんと。額同士が触れ合う。


「……あおいさん」

「……はい」

「オレと、一緒に暮らしませんか」


 冷たくなった手が、そっとぎこちなくわたしの手に重なる。それを握ると、同じ分だけ、返ってくる。
 わたしは、首元についたリングを、ぎゅっと握り締めた。


「……ふふ。プロポーズされてるみたい」

「間違いなく、紛いだろうね」

「……ひなたく、……んっ」

「ねえあおい。返事は?」


 甘えるような。でも触れるだけの唇は、冷たくかさついていて。それが、なんだか無性に愛しく思えて。
 飛びつくように彼の首へ腕を回し、奪うような口付けで、わたしの体温を分けてあげた。


「ハイッ! ひなたくんのお嫁さんに、なります!」

「だから。紛い物だって」

「ひなたくんと、一緒に暮らしたい」

「……うん」

「わたしもね? いつか、そんなふうになれたらいいな……って。ずっと思ってた」

「思ってんならさっさと言って。無駄な体力使った」

「ごめんちゃい」

「ま、いいけど」


 ――よくできました。

 強く抱き締められた腕の中で、そんな嬉しそうな呟きが落ちていった。


「ヒナタくんっ」

「ん?」

「大好きだよ」

「……ん。オレもだよ」


 怒濤のような激しい一日は、こうして幕を閉じたのだけれど。その終わりに、こうして抱き締めてもらって、ようやく気付いたことがある。


(……おかしいな。バレンタインは、わたしが彼に今までの分を込めて尽くしまくるはずだったのに。結局わたしの方が、ものすごいものをもらってしまった気がするんだけれど……)

「ん? どうかした?」

「……ま、いっか!」


 わたしにとって、頑張った一番のご褒美。それは、この腕のぬくもりなのだと。


「素敵なプレゼントを、どうもありがとう! ヒナタくんっ」

「……こちらこそ。いっぱいありがとう、あおい」