すべての花へそして君へ③


 ふいに、冷たい空気が肌を撫でた。こんな寒い日に。どこか窓が開いていただろうか。
 ふと顔を上げると、ダイニングの扉が開けたままになっていた。きっと、そのせいだ。


「一緒に暮らそう、あおい」


 寒い空気を吸うと、たまに鼻にツンとくる時がある。それがふとした時になると、涙が出そうなほど痛くて。……だから、これはきっとそのせいだ。



「……ひなた、くん……」

「ん?」

「どうして。かえって、きたの……?」

「……鍵、かかってなかったよ」

「あ。……ご、ごめ」

「あんたが、泣いてるから」

「……えっ?」

「あおいが、泣いてると思ったから。抱き締めるために、戻った」


 彼の体は、しっかりと外の冷気を浴びていて。頬に触れる髪の毛まで冷えきっていた。
 そして、ドクドクと速く鳴っている心臓。厚いコートの上からでも十分に伝わってくる熱。こめかみから伝ってくる汗。……一体、どれだけ全力疾走してきたのだろう。
 上手く言葉が出てこなくて。彼にしがみつくように抱き付くと、ぽんと頭を撫でてくれた。


「さっきも言ったけど、まだ当分はしないよ? それに、多分だけど許可が下りない」

「……そうなの?」

「ミズカさん辺りが、まだ早いって言う絶対」

「……そうかな」

「そうだって絶対。オレが弱いの知ってるから余計だよ」

「けどうち、みーんな駆け落ち夫婦だよ?」

「……」

「朝日向も、花咲も、ついでに道明寺も元々は」


 寒かったのだろう。「それもそうか」と。真剣に悩み始めるヒナタくんのほっぺたが、鼻が、耳が、赤くなってて。ちょっと、可愛かった。玉のような汗が、愛おしかった。


「いや、もしかしたら上手くいっちゃうかもしれないけどさ」

「いったらラッキーって思うでしょ」

「そりゃそうでしょうよ。今だって、学校に行け行け授業に出ろ出ろ言う彼女から離れたくないのに」

「はっ! ヒナタくん学校! 授業!!」

「一限目自習になった」

「嘘ばっかり!」


 ほら見たことか、と。
 やれやれと肩を竦めた彼は、スマホ画面をこちらに見せてくる。


《一限自習だってよ
 夜型人間》

〈オレは君に一言
 文句を言わせてもらいたいことがある〉

《文句は受け付けてねえ
 それより先に言うことあんだろ》

〈どーもありがとうございました
 ┌〇ペコリ〉

《何も知らねえで
 真顔で開けようとしてたぞ
 お前の嫁》

〈重ね重ね迷惑かけます〉

《おうよ
 オレも部屋引っ繰り返して悪かったな》


 登校中にメッセージの遣り取りをしていたのはよくわかった。一限目は自習になったのもよくわかったけれど、……わたし何かしたかしら。