ふいに、冷たい空気が肌を撫でた。こんな寒い日に。どこか窓が開いていただろうか。
ふと顔を上げると、ダイニングの扉が開けたままになっていた。きっと、そのせいだ。
「一緒に暮らそう、あおい」
寒い空気を吸うと、たまに鼻にツンとくる時がある。それがふとした時になると、涙が出そうなほど痛くて。……だから、これはきっとそのせいだ。
「……ひなた、くん……」
「ん?」
「どうして。かえって、きたの……?」
「……鍵、かかってなかったよ」
「あ。……ご、ごめ」
「あんたが、泣いてるから」
「……えっ?」
「あおいが、泣いてると思ったから。抱き締めるために、戻った」
彼の体は、しっかりと外の冷気を浴びていて。頬に触れる髪の毛まで冷えきっていた。
そして、ドクドクと速く鳴っている心臓。厚いコートの上からでも十分に伝わってくる熱。こめかみから伝ってくる汗。……一体、どれだけ全力疾走してきたのだろう。
上手く言葉が出てこなくて。彼にしがみつくように抱き付くと、ぽんと頭を撫でてくれた。
「さっきも言ったけど、まだ当分はしないよ? それに、多分だけど許可が下りない」
「……そうなの?」
「ミズカさん辺りが、まだ早いって言う絶対」
「……そうかな」
「そうだって絶対。オレが弱いの知ってるから余計だよ」
「けどうち、みーんな駆け落ち夫婦だよ?」
「……」
「朝日向も、花咲も、ついでに道明寺も元々は」
寒かったのだろう。「それもそうか」と。真剣に悩み始めるヒナタくんのほっぺたが、鼻が、耳が、赤くなってて。ちょっと、可愛かった。玉のような汗が、愛おしかった。
「いや、もしかしたら上手くいっちゃうかもしれないけどさ」
「いったらラッキーって思うでしょ」
「そりゃそうでしょうよ。今だって、学校に行け行け授業に出ろ出ろ言う彼女から離れたくないのに」
「はっ! ヒナタくん学校! 授業!!」
「一限目自習になった」
「嘘ばっかり!」
ほら見たことか、と。
やれやれと肩を竦めた彼は、スマホ画面をこちらに見せてくる。
《一限自習だってよ
夜型人間》
〈オレは君に一言
文句を言わせてもらいたいことがある〉
《文句は受け付けてねえ
それより先に言うことあんだろ》
〈どーもありがとうございました
┌〇ペコリ〉
《何も知らねえで
真顔で開けようとしてたぞ
お前の嫁》
〈重ね重ね迷惑かけます〉
《おうよ
オレも部屋引っ繰り返して悪かったな》
登校中にメッセージの遣り取りをしていたのはよくわかった。一限目は自習になったのもよくわかったけれど、……わたし何かしたかしら。



