メッセージは一旦閉じ、連絡先を起ち上げる。教室から出たのか。しばらくコール音が続いた後、『……すぐって、電話?』と、返事が返ってくる。
「ヒナタくんが言ってくれたとおり。わたしも、今君に聞いておいてもらいたいと思って」
『……わかった。じゃあ戻るよ』
「授業は大事です。すぐ終わるからさ」
『……ん。わかった』
じゃあ話してと。彼のやさしい声に、ぎゅっと固く我慢していたものが緩み始める。
「ヒナタくんが、そんなこと考えてるなんてわたし、知らなくて。……すごく、すごくすごく、嬉しかったんだ」
それを、彼に悟られないようグッと堪えて。彼の、素敵なお申し出に、わたしは素直に答えた。
「でもさ、面倒じゃない?」
『はい?』
「だから、面倒じゃない?」
『め、面倒……』
「うん」
『……まさか、一緒に暮らすのが面倒とか言わない』
「ううん。言う」
『…………』
あれ? 返事が返ってこない。
おーい。ヒナタくん。おーい。……ん? え? なになに……?
……ちょっと? いやかなり? ショック?
あ。これ完全に勘違いさせてしまったわ。
「ち、違うのヒナタくん」
『ここまで言って、何が違うって……?』
「ヒナタくんが、わたしと一緒に暮らすの面倒じゃないかなって」
『……なんでオレ?』
「わたし自身が、結構厄介だからさ」
花咲のこと。朝日向のこと。それに、わたしの思いも。
ヒナタくんは大切にしてくれてた。それがすごく、すごく嬉しかった。
わたしだって、いつか大好きな人と一緒に過ごせたらいいなって。それが実現できたらいいなって。そんな夢を、描いてみたことがないわけじゃない。
「わたしね? 高校を卒業したら、花咲を出ようと思ってるの。今度は、朝日向家の家族と一緒に暮らそうと思ってて」
『どのくらい?』
「……まだ、わかんない。決めてないんだ」
『……そう』
約十五年間の空白が、いつになったら埋まるのか。花咲でだって、埋まったのかどうか。
ううん、きっと埋まってない。もしかしたら、埋まることなんて一生ないのかもしれない。それだけきっと、その空白の間わたしの中で、寂しかった思いがいっぱいいっぱい募っていったんだと思う。
家族という素敵な居場所に、憧れを抱いて。そして、今まで叶えられなかった願いを、今はまだ、叶えてもらっている途中だ。
今は、その家族たちを。そして彼らのやさしい思いを。大事に大事にしていきたい。
「それにね? いつか、一人暮らしをしようと思ってるんだ」
『聞いてないけど』
「今聞いたでしょ?」
理由は単純。自立を、したい。
『それ以上何を』
「家事のお手伝いとか仕事の手伝いとか。そういうことしかやったことなくて」
『十分だと思うけど』
「全部はしたことないよ。家事も仕事も、お金のやり繰りも。さすがに全部を任されたことはないんだ」
自負ではないけど、大抵のことは元々できた。できなかったものも、今ではできるようになったと思う。
でも、それを一人で全部できるかって言われたら、まだちょっと自信はない。いつも何かしら、どこかで必ず手を貸される。甘やかされるから。
「まずは、自分一人のことがちゃんとできなきゃダメだと思ったの。一緒に暮らすのはそれからかなって」
大事だから、ちゃんとしたい。ヒナタくんと、これからのことを考えていくなら尚更。



