すべての花へそして君へ③


 なんかもう、何を言ってもアカネくんのペースになる気がした。


『……あおいチャン? 怒った?』

「どうして、そんなことが訊けるの」

『……ごめん。怒らせる気はなくて』

「ううんそうじゃなくて」

『あおいチャン?』

「アカネくんが、……嫌じゃないのかなって」

『嫌だったら訊いてないよ?』

「……」

『心配してたんだあ、これでも』

「……え?」


 電話の向こうで、電車が発車する音がする。一本逃してくれたらしい。


『あおいチャンもひなクンも、お互いが複雑な事情を抱えてた。お互いがお互いを大事に思っていて、思い過ぎていて、お互い悩みも抱えていた。普通の高校生はさ、いっぱいデートしたり、学校のイベントで盛り上がったり、とにかくたくさん一緒の時間を重ねるんだ。二人は、それがなかなかできなかったからね』

「……うん。本当に。まあ、わたしが全面的に悪いのだけど」

『それは違うと思うよ? もしそうだとして違う選択を二人とも選んでたら、今の未来はないんだから』

「アカネくん……」


『まあ、何が言いたかったかというと』と、小さく咳払いをした彼は、電話の向こうできっと、飛び切りの笑顔を作ってくれた。


『二人が上手くいってるみたいで、おれも嬉しいってこと!』

「朝っぱらから何事かと思っただけどね」

『多感な高校生だよ? 普通はそういうことに興味津々でしょ? 二人とも大人びすぎてるんだよおー』

「あ、アカネくん……」

『おれは、普通の高校生ですから。みんなの中では一番と言っていいほどね?』

「……」


 語尾に音符とかが飛んでそうなんだけど。
 これ以上は、深く問い質さないことにしよう。自分の中のアカネくんのキャラが、崩壊しないためにも。


『あおいチャン。電話付き合ってくれてありがとね』

「もう次の来る?」

『うん。チョコレートも。大事にいただくね』

「……ありがとう、アカネくん」

『え? おれ、お礼言われるようなことしたっけ? 結構引かれるようなこと訊いたと思うんだけど』

「ビックリはしたけど……でもね? 嬉しかったんだ」

『あおいチャンがまさか、下ネタ好きだったとは』

「みんなに心配かけてること。すごく申し訳なかったけど、そんな風に言ってもらえたから」

『……そっかあ』

「うん。……じゃ、また学校で」


『うん。またね!』と返ってきた声は少しだけ、本当に少しだけくぐもって聞こえたけれど。
 きっと、わたしの気のせいだ。そう思うことにした。