なんかもう、何を言ってもアカネくんのペースになる気がした。
『……あおいチャン? 怒った?』
「どうして、そんなことが訊けるの」
『……ごめん。怒らせる気はなくて』
「ううんそうじゃなくて」
『あおいチャン?』
「アカネくんが、……嫌じゃないのかなって」
『嫌だったら訊いてないよ?』
「……」
『心配してたんだあ、これでも』
「……え?」
電話の向こうで、電車が発車する音がする。一本逃してくれたらしい。
『あおいチャンもひなクンも、お互いが複雑な事情を抱えてた。お互いがお互いを大事に思っていて、思い過ぎていて、お互い悩みも抱えていた。普通の高校生はさ、いっぱいデートしたり、学校のイベントで盛り上がったり、とにかくたくさん一緒の時間を重ねるんだ。二人は、それがなかなかできなかったからね』
「……うん。本当に。まあ、わたしが全面的に悪いのだけど」
『それは違うと思うよ? もしそうだとして違う選択を二人とも選んでたら、今の未来はないんだから』
「アカネくん……」
『まあ、何が言いたかったかというと』と、小さく咳払いをした彼は、電話の向こうできっと、飛び切りの笑顔を作ってくれた。
『二人が上手くいってるみたいで、おれも嬉しいってこと!』
「朝っぱらから何事かと思っただけどね」
『多感な高校生だよ? 普通はそういうことに興味津々でしょ? 二人とも大人びすぎてるんだよおー』
「あ、アカネくん……」
『おれは、普通の高校生ですから。みんなの中では一番と言っていいほどね?』
「……」
語尾に音符とかが飛んでそうなんだけど。
これ以上は、深く問い質さないことにしよう。自分の中のアカネくんのキャラが、崩壊しないためにも。
『あおいチャン。電話付き合ってくれてありがとね』
「もう次の来る?」
『うん。チョコレートも。大事にいただくね』
「……ありがとう、アカネくん」
『え? おれ、お礼言われるようなことしたっけ? 結構引かれるようなこと訊いたと思うんだけど』
「ビックリはしたけど……でもね? 嬉しかったんだ」
『あおいチャンがまさか、下ネタ好きだったとは』
「みんなに心配かけてること。すごく申し訳なかったけど、そんな風に言ってもらえたから」
『……そっかあ』
「うん。……じゃ、また学校で」
『うん。またね!』と返ってきた声は少しだけ、本当に少しだけくぐもって聞こえたけれど。
きっと、わたしの気のせいだ。そう思うことにした。



