すべての花へそして君へ③


「……え。ヒナタくん今、なんて……」

「時間ないし、こんな玄関先で言うことじゃないんだけどさ」

「……う、うん」

「けど、今言っておきたいから。あおいに伝えておきたいから、言わせて欲しい」


 靴を履き終わり振り返ると、そこにいた少し泣き出しそうな顔の彼女。一段高い段差の上にいる、そんな彼女の僅かに震える手をそっと取って、少し見上げる。
 ぐっと何かを堪えた様子で、一度だけ、ゆっくりと頷いてくれた。


「合い鍵をつくってる時にさ、父さんに言われたんだ」


『……にしても、合い鍵か』

『何か不味かった?』

『いや。嬉しかったんだ』

『……何が』

『お前にも、あの家を手放すつもりはなかったんだなと』

『にも……って。父さん、もしかして』


「この家を、任せるつもりだったって。オレか、ツバサに」


『……ま、日向になると思っていたけどな』

『あの家で過ごした時間、長かったし。愛着あるよね、普通に』

『そうか』

『なんで笑うの』

『いいや何でもない。……日向』

『ん?』

『あの家を、お前に引き取ってもらいたい』

『そ? じゃあ喜んで』

『好きにしなさい。一人で住むもよし、友達と一緒に住むもよし。誰かに貸すもよし、最悪壊して土地を売ってもよし』

『答えわかってて言ってるでしょ』

『私はな日向。あの家にあまりいい思い出はないんじゃないかと。特にお前はそうではないのかと思っていたんだ』

『父さん……』

『だから、あの家を大事に思ってくれていることが、ただ嬉しいんだ』

『……そっか』

『任せたからな。あと、お互いまだ学生なんだから、節度ある交際をしなさいね』

『やっぱ答えわかってて言ったでしょ』

『人様の大事なお子さんを任せてもらうこと。自分の人生だけではなく、相手の人生も一緒にこれから歩いて行くということ。しっかり肝に銘じなさい』

『……うん』

『大事にしてあげなさい。大切にしてあげなさい』

『ありがとう、父さん』


「あ。もちろん、今すぐにって言ってるわけじゃないからね」


 口であんなこと言ってたけど、二十歳までは父名義。つまり、あと約3年の間はまだオレのものではない。


「まあ家は人が住まないとすぐ傷んでいくって言うし、これからもちょくちょくオレはこの家で暮らそうと思ってる。もちろん、あおいも使いたかったらいつでも使っていいから」


 一緒に暮らそうって、口では簡単に言えるけど。そのためには実際問題、いろんな準備も必要だし、いろいろ物入りだ。正直現実は甘くない。


「一人前の社会人になろうとしてる手前、親の脛齧ってるようなこと、どうなのかなって思うけど」


 オレが社会に出て、一端に給料がもらえるようになるまで。当面のことは任せておけと。そう言ってくれたから。
 だから、オレは父さんの条件にすぐ頷いた。


「オレもあおいも、限度はわかってるし。もし何かあったら、父さんだって何か言うだろうし」


 甘えられるところは甘えていいと、オレは思う。二十歳になるまで。学生の間は、学業や他のことに専念できるように。