「結局オレ、何にもしてやれなかったね」
「そんなことないよ?」
「じゃあ何したの。言ってみてよ」
「好きでいてくれたでしょ?」
「……」
「離れててもずっと。今もこうして隣にいてくれるじゃない」
それだけで十分、力になってた。助かってたよ。ありがとう。
「……」
それを、何もしていないというのに。何もしていないことを、彼女はありがとうと言う。
「……ねえ」
「ん?」
それが、泣きそうなくらい、無性に嬉しくて。彼女の笑顔が、本当に愛おしくて。
「キス。……していい?」
「えっ」
「だめ……?」
「だ、だめというわけでは……んっ」
この、胸に湧き上がってくる喜びを。あったかくてやさしい気持ちを。言葉にしたいのに、何て言っていいのかわからないのが少し、悔しい。もどかしい。
「……オレの方こそ、ありがとう」
この口付けで、少しでもこの想いが伝わればいいなと思う。
そう思いながら、何度も何度も、彼女のやわらかい唇に、そっと触れ続けた。
――――――…………
――――……
体調がよくなると「おなか空いたでしょ」と、彼女は痛む腰を上げ台所で料理をし始めた。
「ねえ。やっぱり無理しない方が」
「大丈夫大丈夫。ヒナタくんは座って待ってて?」
これもまた、お持て成しの一つなのだからと、彼女は手際よく何品もの料理を仕上げていく。鼻歌交じりに。とても楽しそうに。
「ねえ」
「ん?」
「このあとどうすんの」
「んーと、今日はねー」
「というか今日も泊まる? そしたらもう一日一緒にいられる」
「え? ……ふふっ。そうだね」
「てかもう泊まろうよ。その方が絶対いい」
「んーそうだね。そうしたいのは、山々なんだけど」
「嫌だ」
「え?」
一緒にいたら、つい欲が出る。
まだ、この幸せな時間を終わらせたくない。この、彼女の楽しそうな姿を見ていたい。彼女の楽しそうな声を聞いていたい。
「泊まってって」
「ヒナタくん?」
「お願い」
「……」
なんであんたは、ここじゃないところへ帰るの。オレの隣が、あんたの帰る場所なんじゃないの。



