すべての花へそして君へ③


「わたしもだよっ」

「……」

「あ。あと、どういたしまして?」

「……」


 さっきまで、気持ちよさそうに爆睡してなかったっけ。
 何とも言えない表情で固まっているオレとは裏腹に、腕枕の上で嬉しそうに彼女ははしゃいでいた。


「それと、夕べはご馳走様でしたっ! てへ?」

「……あ、朝からテンション高くない?」

「えー? ふふっ。そんなことないよー」

「最中にネジぶっ飛んだかなコレ」

「いやーあれだね! ランナーズハイ的な? 疲れすぎて目が覚めちゃってるよ的な?」

「やっぱりイッちゃってるよねあなた」

「朝っぱらから愛囁いちゃってる人に言われたくはない」

「わーヤバい死にたい」


 いろいろ突っ込みどころは朝っぱらから満載だったのに。何もできないまま……逃げたいのに、腕の上の頭は石みたいに重いし。


「あはっ。おはようヒナタくん」

「あーハイハイ、おはようあおいさん」


 あーくそ。顔あっつ。

 容赦ない現実を突きつけられたオレは、天井を仰ぎながら片腕で顔を隠し、彼女の爛々とした視線から逃げた。もし他に、今彼女から逃れられるいい方法があるなら教えてくれ。どうにもこうにも、石頭はびくともしないんです。


「……っえ?」


 指先にやわらかい感触。小さく音を立ててわずかに離れていく。


「どうして逃げる?」

「……ハズいじゃん」

「真っ赤になってて、可愛いと思う」

「オレは嬉しくない」

「わたしは嬉しかったよ?」

「は?」


 彼女の指先が、前髪をそっと払う。
 昇ってきた朝日に思わず目をつむると、彼女はクスッと笑った。


「わたしも。愛してるよ、ヒナタくんっ」

「っ、だから、わかったって言っ――」


 まだ、頭が半分寝惚けているのか。それとも、眩しすぎる後光の如き朝日に目をやられたのか。


「……? ヒナタくん?」

「あー……うん。あれだ。オレもイッてたわ頭」


 悪戯っぽい笑みを浮かべるこいつが本気で天使に見えたとか。……マジでやべえ。重症だわ。


「……あのね、ヒナタくん」


 病院に行こうかどうしようか。行くならついでにいろんなところも治して欲しいし、いっそこいつも連れて行きたいなと冗談半分で頭を抱えていたら、少し不安げな声を上げて彼女がこちら側に寄ってくる。


「ああ。不安がるようなこと考えてたわけじゃないよ。あおいが可愛すぎてどうしようって、ちょっと悩んでただけだよ」

「ぅえ? なん、で……というか、この距離でそんなこと言っちゃうの?」

「近付いてきたのはそっちでしょ」

「それは、……そうなんだけど」


 鼻先が触れそうな距離まで近付いてきた彼女は、オレの言葉に少し恥ずかしそうに視線を逸らす。


「ん?」


 どうしたのと。何かあるなら言ってみてよと。腕枕をしている腕をそっと起こし、彼女の髪を梳くように頭を撫でた。


「離れてる間にね、考えてたことがあるの」

「……何を?」

「言葉には、限界があるんだろうなって」

「……どういうこと」