「わたしもだよっ」
「……」
「あ。あと、どういたしまして?」
「……」
さっきまで、気持ちよさそうに爆睡してなかったっけ。
何とも言えない表情で固まっているオレとは裏腹に、腕枕の上で嬉しそうに彼女ははしゃいでいた。
「それと、夕べはご馳走様でしたっ! てへ?」
「……あ、朝からテンション高くない?」
「えー? ふふっ。そんなことないよー」
「最中にネジぶっ飛んだかなコレ」
「いやーあれだね! ランナーズハイ的な? 疲れすぎて目が覚めちゃってるよ的な?」
「やっぱりイッちゃってるよねあなた」
「朝っぱらから愛囁いちゃってる人に言われたくはない」
「わーヤバい死にたい」
いろいろ突っ込みどころは朝っぱらから満載だったのに。何もできないまま……逃げたいのに、腕の上の頭は石みたいに重いし。
「あはっ。おはようヒナタくん」
「あーハイハイ、おはようあおいさん」
あーくそ。顔あっつ。
容赦ない現実を突きつけられたオレは、天井を仰ぎながら片腕で顔を隠し、彼女の爛々とした視線から逃げた。もし他に、今彼女から逃れられるいい方法があるなら教えてくれ。どうにもこうにも、石頭はびくともしないんです。
「……っえ?」
指先にやわらかい感触。小さく音を立ててわずかに離れていく。
「どうして逃げる?」
「……ハズいじゃん」
「真っ赤になってて、可愛いと思う」
「オレは嬉しくない」
「わたしは嬉しかったよ?」
「は?」
彼女の指先が、前髪をそっと払う。
昇ってきた朝日に思わず目をつむると、彼女はクスッと笑った。
「わたしも。愛してるよ、ヒナタくんっ」
「っ、だから、わかったって言っ――」
まだ、頭が半分寝惚けているのか。それとも、眩しすぎる後光の如き朝日に目をやられたのか。
「……? ヒナタくん?」
「あー……うん。あれだ。オレもイッてたわ頭」
悪戯っぽい笑みを浮かべるこいつが本気で天使に見えたとか。……マジでやべえ。重症だわ。
「……あのね、ヒナタくん」
病院に行こうかどうしようか。行くならついでにいろんなところも治して欲しいし、いっそこいつも連れて行きたいなと冗談半分で頭を抱えていたら、少し不安げな声を上げて彼女がこちら側に寄ってくる。
「ああ。不安がるようなこと考えてたわけじゃないよ。あおいが可愛すぎてどうしようって、ちょっと悩んでただけだよ」
「ぅえ? なん、で……というか、この距離でそんなこと言っちゃうの?」
「近付いてきたのはそっちでしょ」
「それは、……そうなんだけど」
鼻先が触れそうな距離まで近付いてきた彼女は、オレの言葉に少し恥ずかしそうに視線を逸らす。
「ん?」
どうしたのと。何かあるなら言ってみてよと。腕枕をしている腕をそっと起こし、彼女の髪を梳くように頭を撫でた。
「離れてる間にね、考えてたことがあるの」
「……何を?」
「言葉には、限界があるんだろうなって」
「……どういうこと」



