すべての花へそして君へ③


 汗で引っ付いている髪を掻き上げてやる。
 乱れた彼女の頬は赤く。潤んだ瞳は熱っぽくて。……なんだか今、すごく君が愛おしい。


「ねえ。きす、して。ひなたくん」

「……ん。いいよ。口開けて」


 酔い痴れるように、うっとりとあおいはキスを受け入れている。
 第一段階突破したもんね。一人達成感感じるのも無理ないと思う。

 けど。悪いけど。こっからはオレのターンだから。


「あ、ちょ、……ひなたくっ」

「ごめん。もうほんと限界」

「あっ。も、もうちょっとだけ待っ」

「待たない」


 取り敢えず、「明日は動けなくなるかもしれないから先に謝っとくごめん」とだけ、言っておいた。


 ――――――…………
 ――――……


 寝返りを打とうとして腕が動かないことに、寝惚けた頭が違和感を覚える。正直まだこの幸せなまどろみの中にいたい。
 不思議と、気持ちはすっきりとしている。でも体は少し疲れて怠いかった。


(……きのう、なに、したっけ……)


 けれど、惚けた頭は違和感の正体を知りたがっていて。半ば無理矢理、重い瞼をゆっくりと持ち上げた。


「ん……」

「――――」


 え? 何? 天使?
 天使がおる。天使がおるんだけどッ。


(……くそっ。あとちょっとなのに……っ)

「んん……」

「……!」

「……」

(はあ……)


 仕方ない。録音も隠し撮りも諦めよう。

 スマホに伸ばしていた手を戻し、そのまま眠る彼女の髪に触れる。やわらかい、猫っ毛の髪。指で掬うと、するりと滑らかに落ちていく。
 顔にかかった髪をそっと掻き上げると、静かな寝息とともに気持ちよさそうに熟睡している彼女の顔が、ようやくちゃんと見えた。
 ほんのり色付く頬。目尻にはまだ少し、涙の跡が残っていた。


(調子乗ったなー……)


 初めから、無理させてるってわかってた。それでもやめてあげられなかったのは、オレもこいつも足りないって。まだ足りないって。今まで離れていた分の寂しさを、一気に埋めようとしたからで……。
 でも、起きたら一応謝っておこう。寝る前は寝る前で謝ったけど、あおいがあまりにも可愛くて、もっと泣き顔が見たくなって、オレが煽った分もあるから。

“ヒナタくんを受け止められないほど、わたしは柔じゃないよ”

 ……いや。謝る前にお礼か。


「全部。全部、受け止めてくれて、ありがと」


 寂しさも、つらさも、もどかしさも。悲しみも、痛みも、苦しみも。君が、愛しくて愛しくて仕方がないこの、……捻くれた愛情も。


「……愛してるよ」


 幸せすぎて怖いって、こういうことを言うんだなって。今はよくわか――