そうして嬉しそうに駆け出していく背中にオレも嬉しくなるけれど、見送るオレの中には寂しさも募っていった。
今日が終われば、甲斐甲斐しい彼女の姿もまたしばらくお預けか。
「やっぱり、無理してない?」
「え?」
皿に乗ってきたそれは、まるでどこかのお店のもののよう。美しく盛りつけられたデザートたちは、見ているだけで幸せな気分にさえなりそうだというのに。
「……何が?」
持ってきた彼女はというと、あまり嬉しそうではない。
「だから、お持て成し存分にできなかったし」
「逆にらしくなくて、オレはちょっと楽しかったけど」
「待たせちゃったし。……いっぱい」
「待ってる時間も楽しかったよオレは」
「おなか。……いっぱいかなって」
「デザートは別腹でしょ」
フォークでそれを崩すと、中から液体状のチョコレートがとろ~っと溶け出してくる。甘いのもイケるけど、今回は少しほろ苦いチョコで作ったらしい。添えてあった生クリームやベリー系のジャム。ダイス状にカットされたフルーツと、すごく相性がいい。
これは一人で食べてはもったいない。そう思って、一口掬って食べさせてあげようと思ったんだけど。
「わかった降参。言うからこれ、食べてみて? 超美味い」
ものすごい言いたげな視線に、正直折れるしかなかった。
美味しすぎるフォンダンショコラを二人で完食した後、ジンジャーエール(あおい作)で口をさっぱりさせてから話をした。
「もうすぐ終電だなって思ってさ」
「ヒナタくん……」
「折角会えたのに、さよならするのはすごい寂しいなって」
「……」
「そう思ってただけだよ」
まだ、もう少しだけ彼女に甘えられる時間が欲しい。でも、ここでそれを我慢すれば、もっと先にたくさんの時間が待ってるから。
「ご馳走様。素敵なバレンタインデーをありがとう」
だから、今はまだもう少しだけ、待っていよう。彼女の中で、いろんなことに対してのけりが付くまでは。
じゃあ駅まで送るよと。立ち上がりかけたオレの服を、彼女はぎゅっと掴んだ。
「……あおい?」
俯く彼女が今、どんな表情をしているのかわからないけれど。
「……かえった。ほうが、いい……?」
その、服を掴んだ震える指は。途切れ途切れに聞こえる切ない声は。全力でオレに縋ってくれて、そして甘えてくれていた。
「帰った方が、いいなら帰る」
「……」
「でも、わたしは。……は、はじめから帰る気は。なかったよ」
「……ああ、もうっ」
二人とも風呂に入った時点で気付けっての。ていうか、彼女に言わすな。オレの馬鹿野郎。



