時計が21時近くを指しそうになっていた頃。リビングの扉が、余所余所しげにゆっくりと開く。
「ひ、……ひなたくーん」
「ん。終わった?」
ソファー越しに振り返ると、ひょっこり顔を出したあおいの頭には、タオルが掛かっていた。どうやら風呂に入ったらしい。まあ、どっか掃除してたみたいだし、埃っぽかったんだろう。
放置プレイしていても悪くなかった機嫌にほっと頬を緩めた彼女は、嬉しそうにこちらへと駆け寄ってくる。
「そうそう。ちょっとさ、あおいに飲んでもらいたいのが、……っと」
あるんだけどと。最後まで言えなかったのは、可愛い彼女が駆け寄った勢いのまま抱き付いてきたからだ。
持っていたコップを置き、しがみつく彼女を両腕でぎゅっと抱き締める。
「……あおい?」
「ハッ!」
ごめんつい! 思わず……!
そんな単語を言い訳に並べる彼女は、慌てて首に回していた腕を離そうとするけれど。
「なんで?」
「だ、……だって、いきなりしちゃって」
「オレは嬉しかったけど」
「……本当?」
「もちろん」
ぐっと腰を引き寄せ額を合わせると、香ってくる同じシャンプーの匂い。嬉しそうに頬を緩める彼女の耳へ、そっと髪の毛を掛けてやると、くすぐったかったのか、小さく笑いながら本当に嬉しそうにオレの名前を呼ぶもんだから。
「……ん」
気付けば、その可愛い唇を奪っていた。何度も何度も。
久し振りに味わうこの、甘くて柔らかい唇が溶けてなくなるくらい。触れて。深く口付けて。舐めて。貪って。
「はあっ。はあ……っ」
足腰立たなくなった彼女をソファーに押し倒してようやく、自分がしでかした失態に気付く。
これは、ちょっとどころじゃなくやり過ぎてる。いつもならもうちょっと早くストップかけるのに。
真っ赤な顔をして呼吸を繰り返す彼女の、震える指先をそっと掴み、掻き上げた前髪の生え際へ、僅かに触れるだけのキスを落とした。
「……生きてる?」
「……おう。なんとか……」
返ってきた返事に申し訳なさを感じつつ、それでも親指を立てて笑ってくれる彼女に、小さく感謝を告げる。
「ごめん。多分久し振りで、暴走した」
少し合わせる顔がなくて、彼女が横になるソファーを背もたれに、コタツに足を突っ込んで座る。
「じ、……焦らしたわたしが悪いので」
「焦らした自覚あったんだ」
「だって、準備に時間かかったし」
「ま、放置されてるなとは思ってたよ。今日に限らず」
「あ、会いに来てたよ?」
「生徒会以外は顔だけ見せてすぐ帰ってたね」



