「――もしもし、オレだけど」


 それから二人で彼女のことを捜しに行くこと数分。自販機の前であまりにも綺麗な体育座りをしている女の子がいるという目撃情報を得て透かさず急行。無事、彼女を発見できた。
 彼の手を借りて起き上がる彼女にも、どうやら事情があるらしいが、そこは訊かないでおいた。


『あの、何かお礼を』

『いえ、寧ろお礼はオレの方がさせて欲しいくらいで』

『いえいえいえ! それは、俺の方ですよ! 話聞いてもらっちゃったし!』

『……何の話をしていたんですか?』

『あ。……いえ、何か難しい顔をしていたので、どうしたのかなって声をかけたんです』

『わあーわあーわあ!』

『そしたら、どうやってプロポーズしようか考え中っていうからつい話し込んじゃって』

『『えっ!?』』

『シチュエーションとか言葉とかタイミングとか、いろいろ相談に乗ってて』

『……えっと』

『わあー先輩! 嘘です嘘です! 彼冗談言ってるだけですから!』

『で、オレも彼女と話が拗れて喧嘩してたんで、話聞いてもらってました。彼氏さんお借りしてすみません。彼氏さんも、ありがとうございました』

『あ、……い、いえっ』

『こ、こちらこそ……』


 すっかり顔を赤くした二人に、オレは自分たちを重ねていた。
 と、言ってもオレが素直になれない分、こんな初々しい反応はほとんどなかったに等しいけれど。

 それでも重ねたくなったのはきっと、オレから本気でやり直したいと、心の底から願ったからだ。


『……ね? オレ、優しくないんだよ』

『だ、大丈夫。俺、結構そういうのには免疫ついてるから……』

『そう? でも、本当に助かった』

『ううん。……俺の方こそ、初めましてだったのにいろいろ話し込んでごめんね。仲直り、頑張って!』


 ――……ありがとう。
 また彼らに会うことができたなら。そのときは。


(初めましてじゃないんだよって、言ったら驚くかな……)


 優しい花の香りに、本当のことを打ち明けてみよう。