すべての花へそして君へ③


「じゃあ、あれとこれとそれと、それからあれと……」と頭で一通り算段したあおいは、再度聞いた。


「お風呂は? 入った?」

「え? ま、まだ、だけど」

「じゃあお湯溜めてこよう。溜まるまで背中流してあげるね」

「……は?」

「え? だから、背中を」

「い、いい。いらないから」


 溜まったら自分で入るから。そんなことする暇があるなら、お持て成しの準備さっさと終わらせて。
 ブランケットで我が身を守るように身構えると、彼女は「変なの~」と、やっぱりおかしそうに笑う。目の前に鏡ぶら下げてやろうか。


「ふふ。ごめんね? もうちょっとで終わるから」


「お湯入ったら、ゆっくり温まってきてね。はいこれ」と、彼女は再び何かの作業に戻るのか、手を振ってリビングを後にする。


「……至れり尽くせりで、嬉しいけどさ」


 コタツの上に置かれた寝間着を見て、一つ溜め息を落とす。
 確かにね、今まで一緒にお風呂だって入ったことあるし、裸だって見たことあるよ。そりゃもうバッチリ。でも……付き合って何ヶ月? 10ヶ月? 空白あって実質数ヶ月。
 あんたは一緒に持ってきたパンツに、恥じらいなんか微塵も感じなかったみたいだけど、オレはちょっとまだ恥ずかしかったよ。


「彼女からおかん臭がする……」


 お風呂に呼ばれるまで、オレは彼女に成り立ての頃の初々しさをしっかりと思い出し、それを確と脳裏に焼き付けておくことにした。


 ――――――…………
 ――――……


「はあ~。気持ちよかったー……」


 とか言いながら冷蔵庫からビールを探そうとする辺り、オレももう思考はおっさんなのかもしれない。やだやだ。


「あ。……炭酸しかない」


 まあそれでもいいかと思っていたら、冷蔵庫の中にジンジャーシロップなるものを発見。恐らく彼女が買ってきたのだろう。ジンジャーエールでも作ってみるか。ちょっと多めに作って、彼女にも飲ませてみよう。感想が聞いてみたい。
 コップにシロップと、炭酸ジュース。炭酸水を何となくな割合で入れて混ぜていると、パタパタと足音が聞こえてくる。


「あ、ちょうどいいところに。あおい、ねえちょっとこれ飲ん……」


 飲んでみてくれない? と。最後まで言わなかったのは、まるでオレのことが見えてないくらいには、忙しそうにしていたから。


(……ま、後でまた作ればいっか)


 美味くできたから、飲んでもらいたいし。
 そう思って、冷蔵庫に置いてあったおつまみ的なものを出し、できたジンジャーエールをちびちび飲みながらしばらくテレビを見ることにした。