すべての花へそして君へ③

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「あったかー?」

「なーいっ! チカくんはー?」

「あったら聞いてねーよー」

「そーだよねー」


『一緒に、家の中引っ繰り返して欲しいの!』

 そう言ってチカくんを道連れにすること小一時間。タイムリミットが、近付いてきてしまった。


「ごめんねチカくん。変なことお願いしちゃって」

「そりゃいいけど……どうすんだよ」

「んー……まあ、何とかする! 何とかなる!」

「いや、そうじゃなくって」

「ん?」

「この惨状」

「あ……」

「どうすんだよ」

「な、何とかするから大丈夫……!」

「(何とかならねえだろ、この惨状)」


 取り敢えず、ものすごく何かを言いたげなチカくんを玄関までお届けして。あ、そうそう。お礼とはまた違うんだけど。


「ハッピーバレンタイン! 手渡しできてよかった!」

「お。マジで? 今年は流石にもうもらえないかと思ってた」

「そんなことしないよー。そりゃ、彼氏さんも特別だけど、チカくんだってわたしにとっては特別だもの」

「さんきゅ。ま、その特別な彼氏のも頑張れよ」


 玄関に置きっ放しにしていた買い物袋を指差して、ニカッとチカくんは笑う。うん、やっぱり君はこうでないと。


「あのな、アオイ」

「ん?」

「オレ、将来店開こうかなと思うんだ」

「お店?」

「夕方までは喫茶店で、夜は居酒屋とか。まあ、まだ全然何も決めてねえから、どうなるかなんてことわかんねえけど」

「……うんっ」


 きっと、いろんなことを考えて、考え抜いた結果の道だったのだろう。君と、お婆様が、一緒に歩いて行くための。


「お前にはさ、聞いて欲しかったんだ。揉めてたのも知ってたし」

「よかったね、チカくん」

「おう。ありがとな。いい一日を」

「こちらこそありがとう! いい一日をっ!」


 背を向けた彼の背中は、やっぱり前よりもずっと、大きくなっていて。なんだか少し、寂しい気持ちになったけど。


「あ」

「どした?」

「ね、ねえチカくん? もう一個だけ、お願いがあるのだけども……」

「んだよ。猫撫で声とか……可愛いけど、悪い予感しかしねえ」

(だって、つい頼み事しちゃうくらいには、頼りがいのある背中だったんだもん)

「何だよ。頼まれついでに聞いてやるから、遠慮なく言えって」

「……ちょっとね? 渡して欲しいものがあって」

「渡して欲しいもの?」