すべての花へそして君へ③


 よくできましたと、項垂れた頭をよしよしと撫でる。もしかしたら、わたしよりもパパの方がわんちゃん役はハマってたかもしれない。


「じゃあもうひとつ!」

「まだあるの……?」

「今日は真っ直ぐお家に帰りましょう。今日はお仕事お休みです」

「それも、ボスに許可とってるの?」

「はい! そして上司と部下という立場は、わたしが卒業しても続行です!」

「……そっか」

「いいですか? それでは……位置について!」

「え!? は、走るの……?」

「3分内に帰宅できなかったら減俸です。よー……い」

「ええ!? そのシステムも続行するの……!?」

「ドンッ! さあ! シズルさん、ハウスです!」

「(本当に犬扱いじゃん俺)わかったよ!」


 律儀に「わおーん」と遠吠えを上げて走って行った彼の背中を、見えなくなるまで見送った。


「素敵なバレンタインデーを。シズルパパ!」


 ❁


「はあっ。はあっ」


 タイムは……何とか3分切ってる。減俸は一先ずは無さそうで、心から安堵の溜め息を吐いた。


「はあ。ただいまー」


 奥から返事はない。もしかしたら、子どもたちを寝かせているのかもしれない。今日はいっぱい遊んでもらってたから。
 ……そういえば、夫婦二人で晩酌とかいつ振りだろう。というか、酒自体飲むのも、いつかの合コン以来――


「うわっ!?」


 パンッパンッと、音が弾ける。僅かな火薬の匂いに、出所はクラッカーだとわかるけれど。


「ぱぱ!」「とと!」

「「いつもありがとー!」」

「……え?」


 子どもたちが二人で大きな花束を持って、てくてくと近付いてくる。慌ててしゃがんでそれを受け取るけれど、上手く状況が飲み込めない。


「これねこれね、おしごとしてるぱぱ」

「これ? パパもうちょっとイケメンじゃない?」

「こっちはね、おべんきょうしてるとと」

「えー。しー、絵下手くそだなー」


 そして、抱き付いてきた娘たちは、力作だと言って俺の似顔絵を描いてくれたらしい。やっぱり、どっちも似てないと思う。


「似させて欲しいなら、もうちょっと家に帰ってこないと」

「……ねえママ。これどういう状況?」


「どういう状況って……」と小さく笑う彼女は、手に持っていたそれを突き出すようにこちらへと渡す。


「バレンタインデーという状況」

「……ばれん、たいん?」

「ということは?」

「……俺の、誕生日?」

「「そおー!!」」

「うわっと!?」