すべての花へそして君へ③


「やれやれ、とんだ酷い目に遭ったぜ……」


 しかし、冷凍ビームから脱出したはいいものの、何も考えずに逃げたのでもう、ここはどこ? わたしは誰? 状態。


「……あれ? 葵ちゃん?」


 誰!? 完全アウェーの中で、わたしの名前を呼んでくれる、あなた様は一体誰……!?


「………………?」


 あれ。本当に誰? わたし、あなたにちゃん付けで呼ばれるほど親しかったですっけ。


「知り合いか? あ、彼女か」

「はい。僕の仕事の上司で、不倫相手で」

「……」

「嘘です。まだ女子高生ですよ。バイト先で仲良くなって」

「で、女子高生に手を出してるのか」

「滅相もないです。寧ろ僕の方がいろいろ使われているというか」


 隣に立つ大学の先生らしき人は、わたしを一度じっと確かめるように見つめ。


「すまないな、君。彼がいろいろ苦労させているだろう」

「え? い、いえいえ」

「皆まで言うな。苦労が顔に出ている。それに、こいつの腹の黒さはよく知っているからな」

「えー酷いなあ教授ってば」


「じゃあ私は先に失礼させてもらう。何かあれば警備員を呼びなさい」と、本気か嘘かよくわからないまま、教授さんはわたしに気を遣って席を外してくれた。


「……もしかしなくても、シズルさんですか?」

「正解。わかんなかった?」

「それ、変装ですか? 眼鏡に……カツラまでつけて」

「大学生の“僕”は、これで通ってるから」


 いくつもの顔を持っていると言っていたけれど、これは確かに、町中で擦れ違ったくらいじゃすぐにはわからない。眼鏡とカツラだけで、人ってここまで見た目の印象が変わるものなんだなと、ひしひし実感した。
 普段は全然そうは見えないけれど、バッチリ大学生に見えるシズルさんと、構内を歩く。


「じゃあ、やっぱりこれって葵ちゃんのことだったんだ」

「へ?」


 これとは一体なんぞや?
 彼が見せてくれたスマホの画面には、何かの残像しか映っていない。


「これ桜大生のインスタなんだけど」

「ほう。インスタとは。全然やってないのでわかりません」

「まあ、その子が今日こんなことがあったってネットに上げてるんだよ。大学に、ものすごい猛者が現れたって」

「も、猛者?」


 もしかして、この残像……って。