『このこと、誰にも言わないで欲しいんですけど』
『だ、誰にも言わないよ!?』
『タダとは言わないんで。……お願いします』
『……そんなに、大事な子なのかな』
『先輩?』
『え? あ、はいっ!』
『何して欲しいですか。俺にできることなら何でもするんで』
『何でも……か。何でもと言われると、何か余計どれにしようか迷っちゃうな。でもでも、理由はどうあれ折角白馬の王子様と接触できたわけだし、何かこう、どうせならこれっきりで終わらないような何かがいいよね……』
『(……この人全部、声から漏れてるんだけど)』
『でも、そうだとしても流石に図々しいお願いはできないよね! 王子絶対優しいから、何でもお願い叶えちゃうよどうしよう……!』
『先輩』
『は、はいっ!!』
『それで? いろいろ言ってましたけど、決まったんですか』
『あ、う、うん! 決まったよ!』
――そう言って、ちょうどよさげなものがないかって、目につく辺りを慌てて探そうとしたのに。
『(……あ。唇綺麗……)』
シャツの間から見えた鎖骨も。すっとラインの入った首筋も。シャープな顎のラインも。見れば見るほど、綺麗で。触れてみたいと、そう思った。
『……キス』
『……はい?』
『キス、してみたいな』
『……』
『………………あれ? 私今なんか言った?』
『キスがしたいと』
『!?!?!? なっ、なんちゅうことを! ごめんごめんごめん! 今のなしだよ! 言い間違いだよ! 聞き間違えだよ~』
『いいですよ』
『ひえっ!?』
『その代わり。約束、ちゃんと守ってくださいね。先輩』
「……くそう。律儀にそこまで、しなくたっていいのに」
勇者は、もう一度腫れ上がった唇を拭いながら思った▼
これが、惚れた欲目というやつかと▼
「……さっさと終わらせて帰ろ。誰だよ、白馬の王子様が入学してきたとか言った奴……あ、私か」
魔王との契約を交わした勇者は、今日も今日とてパシリに勤しんだのだった▼



