すべての花へそして君へ③


『このこと、誰にも言わないで欲しいんですけど』

『だ、誰にも言わないよ!?』

『タダとは言わないんで。……お願いします』

『……そんなに、大事な子なのかな』

『先輩?』

『え? あ、はいっ!』

『何して欲しいですか。俺にできることなら何でもするんで』

『何でも……か。何でもと言われると、何か余計どれにしようか迷っちゃうな。でもでも、理由はどうあれ折角白馬の王子様と接触できたわけだし、何かこう、どうせならこれっきりで終わらないような何かがいいよね……』

『(……この人全部、声から漏れてるんだけど)』

『でも、そうだとしても流石に図々しいお願いはできないよね! 王子絶対優しいから、何でもお願い叶えちゃうよどうしよう……!』

『先輩』

『は、はいっ!!』

『それで? いろいろ言ってましたけど、決まったんですか』

『あ、う、うん! 決まったよ!』


 ――そう言って、ちょうどよさげなものがないかって、目につく辺りを慌てて探そうとしたのに。


『(……あ。唇綺麗……)』


 シャツの間から見えた鎖骨も。すっとラインの入った首筋も。シャープな顎のラインも。見れば見るほど、綺麗で。触れてみたいと、そう思った。


『……キス』

『……はい?』

『キス、してみたいな』

『……』

『………………あれ? 私今なんか言った?』

『キスがしたいと』

『!?!?!? なっ、なんちゅうことを! ごめんごめんごめん! 今のなしだよ! 言い間違いだよ! 聞き間違えだよ~』

『いいですよ』

『ひえっ!?』

『その代わり。約束、ちゃんと守ってくださいね。先輩』



「……くそう。律儀にそこまで、しなくたっていいのに」


 勇者は、もう一度腫れ上がった唇を拭いながら思った▼
 これが、惚れた欲目というやつかと▼


「……さっさと終わらせて帰ろ。誰だよ、白馬の王子様が入学してきたとか言った奴……あ、私か」


 魔王との契約を交わした勇者は、今日も今日とてパシリに勤しんだのだった▼