すべての花へそして君へ③

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 魔王は呟いた▼


「……ほんと、すぐ痛いところ突いてくるんだもんな」


 魔王は獲物に逃げられた▼


「桐生くん? 何か言った?」


 勇者が現れた▼


「うるさい」

「(聞いただけなのに……!?)」

「いいから、これ」

「……何? これ」

「チョコ」

「はあーっ! これまたものすごい量! まるで今日がバレンタインみたいな! 何? くれるの? ありがと」

「何言ってんの」

「はい?」

「バレンタイン今日だけど」

「…………あれ?」


 勇者は、首を傾げた▼
 魔王は、頭を抱えた▼


「それ、家まで運んどいて。何回も言うけど、家知ってるからってストーカーも泥棒もしないでよ。さっさと置いてさっさと帰って」

「わ、わかってるよ……!」


 勇者は、魔王のパシリだった▼


「あ、ちょっと待って」


 魔王は、紙袋の中から一つだけ取り出した▼


「これはいい。大事な子からもらったのだから」


 魔王は、「じゃあ、あとよろしく」とわしゃわしゃ髪をぐちゃぐちゃにして、去って行った▼


「なんなの……」


 勇者は、一人ぼやく▼


「王子様だと思ってたのに……」


 まさか、こんな悪魔的性格だったとは▼
 まさか、趣味が隠し撮りだったとは▼
 しかも、同じ女の子オンリーとは▼


「なんで知ってしまったんだー! 知りたくなかったあ!」

「うるさい」

「へえっ!?」


 背後に、魔王が立っていた▼


「き、桐生くんっ!? な、何かあった……?」

「明日午前中で講義終わりでしょ。俺明日は一日詰まってるから」

「あ、そっか。うん、わかった! じゃあ今度は明後日だね」


 やったー! 明日はパシリから解放されるぞー!
 勇者は、内心でスキップしながら喜んだ▼


「だから、前払い」

「え――んんっ!?」


 勇者は、魔王に唇を奪われた▼


「ぷはっ!」

「いい加減慣れなよ。何回やってると思ってんの」

「慣……!? い、いきなりするからじゃない!」

「ああ申告制? じゃあ今度から気を付けとくよ」


 唇を拭う魔王に、負けじと勇者もこれでもかと言うほど唇を擦り上げた▼


「わかってるだろうけど、約束守ってくださいね。言ったら、こいつと同じ目に遭わすから」

「こ、こいつとは……?」


 勇者は、魔王の持っているスマホ画面を覗き込んだ▼
 ついさっき、どこかで見たような……どこだっけ?


「俺の大事な子に手出したから、日本から排除した」

「ヒイッ……! だっ、誰にも桐生くんの変わった趣味は言いません……!!」

「そ? じゃ、それよろしく。また明後日ね、先輩」

「あ、アイアイサーッ!?」


 勇者は、魔王の背中が見えるまでずっと敬礼をしていた▼