「それで? メールくれてたけど、俺に用事って?」
「ハッ! そうでした!」
すっかり勝負のせいで頭の隅の方に追いやられていた。
持ってきたそれを差し出すと、何故か彼は少し複雑そうな顔になる。迷惑だったかな。
「葵ちゃん、もしかして配って回ってる?」
「はい。もしかしなくても」
「俺というものがありながら」
「トーマさんとは、とっても素敵なお友達の関係が築けていると思ってます」
お友達ね、と。彼は何も言わなくても結んであった橙色のリボンを解き、わたしの左手首に結んでくれる。その様子を見て、やっぱり少し違和感があった。
「トーマさん」
「ん? どうしたの」
「もしかしてですけど、彼女さんできました?」
「……」
一瞬止まった指先。けれど何も言うことなく、きゅっとリボンが結ばれた。
「……葵ちゃんってさあ」
顔を逸らされ、絶対零度の雰囲気の中固まっていること数分。口を開いた彼の顔には、氷点下の笑みが浮かんでいた。
「外すこともあるんだね」
「……へ?」
「彼女はできてないよ。残念だったね」
「……そうなんですか?」
「そうだよー。酷いなあ。俺は葵ちゃん一筋だよ? まだわかってないんなら今度俺の部屋来る? 葵ちゃんフォルダ見せてあげる」
「え、遠慮しますう……」
じゃあなんでさっき、まるで誰かのことを思い出しているような、少し寂しげな表情でリボンのこと見てたんだろう。本当に、それだけなのかな。
「……最近さ、一緒にいたら楽しい子がいて」
え? ……それ、もしかして。
「ほんと、飽きないよ。それに関して言えば葵ちゃん以上かもしれない」
「と、トーマさん」
「今日はまだ、その子に会ってなくってさー」
「そ、それは……」
もしや、片想い、というやつなのでは……!
「あ、あのっ! トーマさ」
「あーあ。バイト前にストレス発散したかったのに」
……ん?
「あ、あのー……?」
「あーモフりたい」
「も、もふ……?」
「……まあいっか。明日今日の分まで遊んでやれば」
「あの、トーマさん?」
「ん? どうかした?」
あれですかね? もしかしてトーマさん、犬とか飼い始めたんですかね。一緒にいると楽しいですもんねー。でも動物に片想いするのはちょっと……。
「面白いこと言うんだねー葵ちゃん」
「ヒッ……」
「俺がそんな痛い奴に見えるんだー。へー」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……!」
うん。やっぱり正座しておいて正解だった。
てっきり、その人のことを想ってさっきあんな表情をしていたんだと思ったのに。……どんな人なんだろう、その人。



